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マンションの大規模修繕 修繕積立金不足のトラブルを回避して「資産寿命」を守る!

マンションの大規模修繕は、マンションの経年劣化した部分を修繕し、居住者が安全・快適に生活するために定期的に行う工事です。マンションの資産価値、ひいては「あなたの資産寿命」を守るための大切な投資でもあります。今回は、大規模修繕でありがちなトラブルと、その対処方法について解説します。
目次
1. マンションの大規模修繕で起こりがちなトラブル リスク回避の方法とは
2. 積立金不足が足りない!? まさかの事態に備えるには
3. マンションの資産価値は居住者の資産寿命に影響!
マンションの大規模修繕で起こりがちなトラブル リスク回避の方法とは

マンションの大規模修繕工事は建物を長持ちさせ、資産価値を保つために欠かせないものです。
しかし、いざ実際に工事の話が進むと、区分所有者間でトラブルが発生することも少なくありません。
特に、「工事費用」について合意形成ができるかどうかは、大規模修繕の成功を大きく左右します。
●どうして工事費用で揉めるのか? 背景にあるのは価値観の違い
大規模修繕は頻繁に行われるわけではありません。そのため、「どのようなものかよくわからない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
例えば、初めて高額な見積もりを目にすると、「こんなに高いの?」「そんな話は聞いていない!」「もっと安くできるはず!」といった声が出やすくなります。その一方で、「これは妥当な金額だ!」と考える人もいて、対立が起こるケースもあるでしょう。
こうした意見の食い違いには、実は、私たち一人ひとりの住まいに対する「考え方(価値観)」や「ライフスタイル」が大きく影響しています。
たとえば、「このマンションに長く住み続けるつもりか?」「将来的には売却して転居するかも?」といった将来の計画や、世帯収入や資産状況などによって、大規模修繕に求めるレベルや費用負担の捉え方が異なるため、全員が納得することが難しくなってしまうのです。
●「安さ」だけを求めると、思わぬ落とし穴が・・・
合意形成が難しい状況になると、「とにかく費用を安く抑えたい」という意識が先行し、本来大切な「工事の品質」に目が行き届かなく傾向があります。
専門知識がないと、提示された金額だけに注目してしまい、その費用が工事内容に見合っているのか、適切な品質が確保されているのかといった、適切な判断が難しくなることもあるのです。
工事内容は専門的で理解が難しい部分が多い一方、費用は具体的な「数字」で示されるため、工事の妥当性を判断する材料として優先されがちです。
本来必要な修繕が適切に行われず、結果としてマンションの資産価値を損なってしまう可能性もあるのです。
●見積金額と実際の工事費用の乖離
また、複数の施工業者から見積もりを取ったとしても、実際に工事を進める過程で、追加費用が生じることは珍しくありません。
そうなると、費用を負担する区分所有者の中には「話が違う!」と不信感を抱く人が現れることもあります。
こうしたトラブルの背景には、管理組合の理事会や管理会社、施工会社から区分所有者に対する情報開示が不十分であることもあります。
円滑に合意形成を進めるには、工事の内容や費用に関する情報を丁寧かつ正確に伝え、区分所有者の理解と納得を得るプロセスが何よりも大切になります。
積立金不足が足りない!? まさかの事態に備えるには

マンションの大規模修繕は、区分所有者が毎月コツコツ積み立てている「修繕積立金」によって支えられています。
しかし、10年後、30年後、さらには50年後といった長期的な社会情勢の変化を見据えて、十分な計画のもとに積み立てが行われているような理想的なケースは限られているのが実情です。
そのため、いざ大規模修繕工事が必要となったときに、「積立金が足りない!」というまさかの事態に陥ってしまうことがあります。
「うちのマンション、大丈夫?」と不安に思っても、すべてを改善しようとすると費用がかさみ、修繕積立金が足りなくなる懸念から、なかなか実行しづらいのが現実でしょう。積立金不足を回避するための対策として「管理費の見直し」が挙げられますが、実は他にも選択肢があります。
●どうして積立金不足が起こるの? 意外な落とし穴
積立金不足の原因には、社会情勢の変化に伴う工事費用の高騰と、管理上の問題の2つが考えられます。
特に近年は資材費や人件費などの高騰が著しく、10年前と比べても大規模修繕にかかる費用が増えています。 積立金の金額設定にはこうした物価上昇が十分に織り込まれていないケースが多く、工事費用が想定以上に増大しやすいのです。
一方、管理面では、新築分譲時に販売しやすさを優先して、積立金が低く設定されている場合があります。これが、のちに積立金不足を招く大きな要因となることがあります。
さらに、積立金の増額が必要になったとしても、管理組合総会での合意形成が難しく、金額の見直しが進まないという事例も少なくありません。
そのほか、区分所有者の収入の減少や個別の事情によって、積立金の滞納が発生すると、他の住民の負担が増えたり、資金不足につながる可能性があり、管理組合の運営に悪影響を及ぼすことも懸念されます。
●積立金不足への対処方法
こうしたリスクを回避するためには、管理会社と継続的にコミュニケーションを取りながら、定期的に管理費を見直したり、建物全体の保険契約を再検討するのも有効な方法です。
また、共用部分の清掃を専門業者に委託するのではなく区分所有者で分担する、共用部分の照明をLEDに切り替えて電気代を節約するなど、日々の細かな工夫もコスト削減につながります。
近年は、マンションの管理組合で修繕積立金を運用する事例も増加傾向です。もちろん、一定のリスクがあるため区分所有者間の合意形成が必要です。
どうしても解決が難しい場合は、修繕積立一時金の徴収によって不足分を補う方法もあります。ただし、区分所有者の負担が増え、滞納者が発生するリスクもあるため、慎重な判断が求められます。
☆修繕積立金については下記の記事も参照してください。
⇒マンション修繕費用の積み立て 管理組合の創意工夫とは(改定版)
マンションの資産価値は居住者の資産寿命に影響!

「人生100年時代」といわれる現代において、健康と並んで重要なのが資産寿命です。
資産寿命とは、老後の生活に必要な資金が尽きるまでの期間を指します。
年金や預貯金といった金融資産に加え、生活の基盤である「不動産」という資産をいかに長く価値あるものとして維持できるかが、老後を安心して暮らす上で重要な要素となるでしょう。
●資産価値を保つカギは「共用部分のアップデート」
マンションの資産価値を保つには、適切な大規模修繕が欠かせません。
たとえ立地や間取りが良くても、管理状態が悪ければ、マンションの資産価値は大きく損なわれてしまいます。
特に、費用の不足で修繕が後回しにされがちな共用部分の老朽化が進むと、マンションの資産価値だけでなく、住民の満足度も大きく低下させることになりかねません。エントランスや外観が古びていたり、共用設備が壊れたままになっていたりすると、マンション全体の印象が悪くなり、売却時に不利になる可能性もあります。
●環境性能向上と長寿命化は、これからの「常識」に
近年は、マンションの環境性能向上や建物の長寿命化が広く求められており、大規模修繕においても最優先課題となっています。
省エネ設備の導入や断熱性能の改善、劣化しにくい建材の採用など、単なる「修理」にとどまらない「将来価値を守るためのアップデート」という側面が、これまで以上に重視されています。例えば、窓の断熱性能を高めたり、効率的な給湯器に交換したりすることで、毎月の光熱費を抑えることができ、長期的に見れば家計にも優しくなります。
●「今、必要なこと」を見極める賢い修繕計画を
マンション全体を一括して修繕する方法は効率的に思えますが、まだ使用可能な部分や傷んでいない部分まで更新することになり、無駄が生じる可能性もあります。そのままで使えるものは活かしつつ、「今まさに必要な部分」を見極めて修繕するほうが、コスト削減は勿論、地球環境保全の観点からみても合理的です。
もちろん、すべてまとめて新しくすれば、そのぶん見た目や快適性は向上します。しかし、修繕サイクルが短くなり、長期的なコスト増につながるおそれもあります。 だからこそ、マンションの将来的な資産価値を見据え、優先度に応じて計画的に修繕することが、賢い選択といえるでしょう。
■あわせてお読みください。
・マンションの価値工事 具体的に何をすれば良いの?
・マンション管理組合の役員って何をするの? マンションの資産価値を維持しよう(改定版)
・マンションの防犯や資産価値に影響する管理のポイント
・国の補助金制度を上手に使ってお得に省エネリフォーム 光熱費を節約し、健康住宅に進化
・マンション老朽化で修繕積立金の不足も? 高経年マンションの備えとは
・マンションの長期修繕計画 大規模修繕と計画見直しで行うマンション管理
■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師を歴任。日本建築ドローン協会(JADA)WG委員。
(2025年12月15日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。





















