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第三者管理方式で理事会が崩壊? 導入前に知っておくべきリスクと回避策

第三者管理方式

近年、マンション管理において「理事会役員のなり手不足」や「高齢化による担い手の限界」が深刻化しています。その解決策の一つとして注目されているのが第三者管理方式です。理事長や理事を外部の専門家に委託できるため、区分所有者の負担軽減が期待されます。
しかし一方で、この仕組みを安易に導入すると「理事会が機能不全に陥る」「資金流用や不正のリスクが増す」など深刻な問題が起こる可能性があります。
本記事では、第三者管理方式の仕組みと種類、メリット・デメリット、そして理事会崩壊を防ぐための注意点について解説します。

目次
1. 第三者管理方式とは?
2. 第三者管理方式導入で管理組合の理事会が崩壊する理由 管理不全を防ぐには
3. 第三者管理方式でマンション管理組合や理事会を崩壊させないポイント
4. おわりに

第三者管理方式とは?

第三者管理方式

通常の管理組合では、理事長や理事は区分所有者の中から選任されます。これに対し、第三者管理方式は区分所有者以外の外部専門家が理事長や理事を担う仕組みです。背景には、
 ・少子高齢化による担い手不足
 ・理事会役員の業務負担の大きさ
 ・管理運営の専門性不足
といった課題があります。
国土交通省のガイドラインでも、第三者管理方式は「一定の条件を満たせば有効な仕組み」として位置づけられています。

●第三者管理方式における4つのタイプ
第三者管理方式には複数の形態があります。主なタイプを整理すると以下のとおりです。

タイプ 概要 特徴
理事・監事外部専門家型 外部の専門家が理事や監事に就任 区分所有者の負担軽減と専門性強化
理事長外部専門家型 外部専門家が理事長を担う 意思決定の迅速化、ただし権限集中のリスク
外部管理者理事会監督型 外部専門家が管理者となり、理事会が監督 理事会は残るが権限が限定的
外部管理者総会監督型 理事会を廃止し、外部管理者が直接運営 区分所有者の関与が弱まり形骸化の恐れ

導入するタイプによって、区分所有者の関与度合いやリスクの大きさが大きく変わります。

●第三者管理方式におけるメリットとデメリット
メリット
 ・区分所有者の役員業務負担を大幅に軽減できる
 ・専門的な知識や経験を持つ外部人材を活用できる
 ・意思決定が迅速化しやすい

デメリット
 ・報酬が発生するため支出が増加
 ・外部人材への依存度が高まり、不正リスクが増大
 ・契約解除や交代が難しいケースがある
 ・区分所有者の主体的な関与が低下し、管理組合が形骸化する恐れ

第三者管理方式を採用する大きなメリットとして、理事会の一部またはすべての機能を外部の管理会社に委託することで、区分所有者の負担を軽減できる点があります。加えて、専門家の知見を取り入れるため、管理の適正化や質の向上も期待できます。

一方で、従来の「理事会運営方式」からこの方式に切り替える際の調整が難しく、管理組合内での合意形成や方式の移行に時間を要するケースも少なくありません。

●共働き世帯が増加した現代における管理組合のスタンダードな選択
内閣府男女共同参画局が発表した「男女共同参画白書 令和6年版」によると共働き世帯は妻が64歳以下の世帯の7割以上を占め、夫婦が共に働いている世帯が急増していることがわかります。1980年代初めには専業主婦世帯が共働き世帯の2倍に近かったことを踏まえると、この40年余りで構造が完全に逆転したことになります。

こうした変化には、女性の社会進出、物価上昇や年功序列による昇給制度の崩壊など、経済的な要因が複合的に影響していると考えられます。

マンション管理組合の理事選出には、立候補だけでなく、くじ引きや輪番制などの選出方法をするケースもありますが、役員に選ばれた際に仕事をしながら役員を務めるのは時間的に厳しく、子育て世代であればなおさらでしょう。その結果として、学校のPTA役員の担い手不足と同様、マンションの管理組合役員のなり手も減少傾向にあります。

こうした状況の中、管理組合の運営を管理会社へ外部委託する第三者管理方式は、令和のマンションのスタンダードとなりつつあります。

☆マンション管理組合の役員選出方法についてはこちらをご覧ください。
マンション役員の選出・選任方法とは? 少子高齢化による管理組合の悩みと課題

●マンション管理の専門家による管理内容の適正化に期待
これまでマンション管理組合の理事会は区分所有者によって運営されてきましたが、担い手の多くは不動産や建物修繕などの専門知識を持っておらず、長期的な視点に立った管理計画の策定は困難との指摘もあります。

マンション管理の質など内容よりも目先の費用に関心が向いてしまい、適切な大規模修繕計画を立てられず、建物の資産価値が大きく下落したり、修繕費不足により工事が難航したりするケースも少なくありません。

一方、第三者管理方式では外部の専門家の意見を取り入れられます。
大規模修繕においても長期的かつ合理的な計画を策定でき、区分所有者間の話し合いだけでは導き出すことの難しい、専門的かつ持続可能なマンション管理の実現が見込めます。

第三者管理方式は、マンションの資産価値の維持・向上に大きなメリットをもたらすといえるでしょう。

☆第三者管理方式については、こちらの記事もご覧ください。
マンション管理の「第三者管理方式」とは? 増加している理由とメリット・デメリットについて

第三者管理方式導入で管理組合の理事会が崩壊する理由 管理不全を防ぐには

第三者管理方式

第三者管理方式は、理事会の業務負担軽減や専門知識に基づく管理を実現できる一方で、区分所有者による監視機能の弱体化や資金の不透明な運用といったリスクも伴います。

●理事会が第三者により運営されるデメリット
「第三者管理方式」の導入によって理事会を廃止したり、理事長や理事会の役割を外部に委ねたりすると、マンション管理における区分所有者の監視機能が弱まり、場合によっては適切なチェックができなくなるおそれがあります。

また、新築当初から第三者管理方式を採用すると、区分所有者の管理組合や理事会への関心が薄れ、マンション管理を他人事と捉える“無関心層”の増加を招く要因にもなり得ます。

さらに、修繕工事の実施など重要事項に関わる意思決定を管理会社などの外部に任せることで、委託先の関連会社への不当な発注など、修繕積立金や管理費が不透明な取引に費やされる事態も想定されるでしょう。

こうした問題が発生したとしても、第三者管理方式の契約は、簡単に解除できるものではありません。管理規約の変更や手続きの制約もあるため、全てを外部に委託する際には、信頼できる専門家を慎重に選定することが極めて重要です。また、管理規約の内容を事前に確認し、第三者管理者方式の解除可否についても明確に把握しておく必要があります。

●管理費や修繕積立金の預金口座と通帳、印鑑を預けることの危険性
第三者管理方式かどうかにかかわらず、資金管理者による大規模な横領事件は頻繁に発生しています。

多くの場合、マンションの管理費や修繕積立金は理事長名義の口座で管理されていますが、その通帳と印鑑を第三者管理方式の委託先に一括して預けるのは、大きなリスクを伴うといえるでしょう。
一般家庭でも、通帳と印鑑を他人に同時に預けておくということはまずないはずです。
マンション管理組合も、同様の危機意識を持って資金管理に取り組むべきなのです。
適切でない通帳管理は横領事案にもつながりかねず、委託先への安易な「丸投げ」によって理事会の崩壊を招く可能性があります。

管理組合が機能しない「管理不全マンション」にしないためには、こうしたトラブルを未然に防ぎ、区分所有者間の情報共有と不正の抑止力を強化することが不可欠で、以下のような対策が考えられます。

 ・月次報告の義務化:定期的な収支状況の開示を義務付け、透明性を確保する
 ・外部監査の導入:第三者によるチェック体制を整備する
 ・通帳と印鑑の分離管理:個人の意思で資金を引き出せないようにする

通帳や印鑑を「信頼しているから預ける」のと「不正を防ぐ仕組みを構築する」のはまったく別の次元の話であり、適切な不正防止策を講じることこそが最も重要な備えなのです。

第三者管理方式でマンション管理組合や理事会を崩壊させないポイント

第三者管理方式

第三者管理方式は本来、理事会業務の負担軽減を目的とするものではなく、専門家の知見を活用し、マンション管理の質を向上させるためのものです。

●理事会業務の煩雑さ解消は第三者管理方式の本来の目的ではない
第三者管理方式の導入にあたっては、「理事会業務から解放される」という側面ばかりが強調されがちですが、本来の目的は、外部の専門家を管理者として迎え入れて専門的な知見を活用し、よりふさわしい管理計画を策定することにあります。

管理の質を維持・向上させるための選択であるとの認識こそが、理事会の機能不全や崩壊を防ぐうえで極めて重要といえるでしょう。

●第三者管理方式のリスクを理解する
第三者管理方式は、現代社会を生きる私たちにとって有力な選択肢の一つといえるかもしれません。
しかし、いかなるサービスにもメリットだけでなくデメリットもあることを理解し、潜在的なリスクについても把握しておく必要があります。
第三者管理方式の導入により、意思決定の偏りや利益相反が生じるというリスクに備えるためにも委託先である管理会社への監視体制の強化が不可欠です。
また、区分所有者が「自分たちのマンションを守る」という意識を持ちにくくなると、清掃、保全など資産価値の維持・向上への関心が薄れ、管理の質低下や管理不全につながる可能性も否定できません。

さらに、管理組合や理事会にはマンション管理に関わる意思決定機関というだけでなく、区分所有者同士の交流を育むコミュニティという側面もあります。
個々の暮らしを尊重しつつ、こうしたコミュニティの存続も考えていく必要があるかもしれません。

●外部管理者方式等に関するガイドラインについて
国土交通省が2024年6月に策定した「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」では、外部管理者方式の導入プロセスから金銭トラブルの防止策に至るまで、さまざまな留意事項が整理されています。
※参考:マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン(国土交通省)

「外部専門家による外部管理者方式において、管理者が預金通帳を管理している場合には、管理組合の預金口座の印鑑等は監事が保管することが望ましい」といったリスク回避のための具体策のほか、委託先が自社や関連会社と取引する際には総会で議論の場を設けることを求めるなど、トラブル防止に向けた措置も盛り込まれています。

おわりに

第三者管理方式は、理事会の負担を軽減し、専門的な運営を可能にする有効な手段です。しかし「ただ楽をするため」だけに導入すると、理事会崩壊や不正リスクを招く可能性があります。
導入を検討する際は、メリットとデメリットを正しく理解し、契約内容・監視体制・区分所有者の関与を十分に確保することが不可欠です。自分たちの資産を守る主体はあくまで区分所有者自身であることを忘れてはいけません。

■あわせてお読みください。
マンション管理の「第三者管理方式」とは? 増加している理由とメリット・デメリットについて
マンション役員の選出・選任方法とは? 少子高齢化による管理組合の悩みと課題
マンション老朽化で修繕積立金の不足も? 高経年マンションの備えとは


■この記事のライター
□吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
職能能力開発総合大学校を卒業後、建築・マンション修繕の分野で40年の実務経験を重ねる。マンション管理士・一級建築施工管理技士・一級管施工管理技士・マンション維持修繕技術者として、数多くの大規模修繕計画や管理組合支援を担当し、実務に即した提案力に定評がある。一方で、「専門知識を住民の方にもわかりやすく伝えること」をモットーに、講演・執筆・現場でのアドバイスを通じて、区分所有者が安心して暮らせるマンション環境づくりに取り組んでいる。専門家としての厳密さを大切にしながらも、読者に寄り添い“暮らしに役立つ情報”を届けることを目指している。

(2025年12月22日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合がありますので予めご了承下さい。

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