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どうなっているの? 世界のマンション事情 〜韓国編〜

韓国 マンション

新シリーズ『どうなっているの? 世界のマンション事情』では、特に日本でいう「マンション」に注目し、世界各国における事情を詳しく調べ、読者の皆様にご紹介していきます。
第一回目は、韓国のマンション事情について取り上げます。韓国では、一般的な住宅形態として、高層のマンションが多く建てられています。これは、土地不足という問題と多くの人々が都市部に住みたいという傾向があるためです。今回はそんな韓国のマンション事情について詳しく解説していきます。

目次
1.日本の「マンション」は、韓国では「アパート」?
2.韓国のマンション 賃貸と分譲のシステムの違い
3.間取り、断熱、脱炭素。韓国のマンションの特徴は

日本の「マンション」は、韓国では「アパート」?

韓国の街を散策すると、立ち並ぶ高層マンション群に目を奪われます。
2020年の人口住宅総調査(韓国統計庁公表)によると、韓国の住宅総数1853万戸のうち62.9%がマンションで占められており、特に都市部ではカラフルで派手な外装の超高層マンションが多く見受けられます。
日本の「マンション」と呼ばれる建物は、韓国では「アパート」と呼ばれていますが、日本と韓国ではどのような違いがあるのでしょうか。今回は、韓国のマンション(アパート)の特徴について詳しくご紹介していきましょう。

●利便性が高い韓国のマンション
韓国のマンションは、一般的に20〜30階建てが複数棟隣り合い、正面の大きなゲートをくぐるとまるでひとつの町が形成されているような造りになっており、利便性の高さが特徴です。具体的には、以下のような点が挙げられます。

・特に首都圏では、地下鉄駅やバス停などの公共交通機関が整備されており、通勤や外出がスムーズ。
・スーパーやコンビニエンスストア、レストランなどの商業施設が併設され、生活必需品の調達や食事に便利。
・住民が自由に利用できるフィットネスや多目的室、待合室、保育園など、様々な施設が併設され、健康維持、コミュニティ形成、子育てサポートなどに配慮されている。
・セキュリティシステムが整備され、入口に警備員が配置されているなど、安全面にも配慮されている。

●日本での人気物件も、韓国では人気がない?

韓国 マンション

車社会である韓国では、駐車場の広さや使いやすさも重要なポイントとなります。
多くの場合、屋内の地下駐車場が用意されているため、雨風にさらされることなくマンション内へと移動できるので便利です。

「最上階の住戸」や「妻側の住戸(角部屋)」は、日本では人気がありますが、韓国では好まれない傾向があります。その理由は、冬の最低気温がマイナス10度以下になることもある韓国では、「最上階の住戸」や「妻側の住戸」は非常に寒く、暖房代がかさんでしまうからです。また、真夏には太陽の熱が室内に伝わりやすいので、「最上階の住戸」や「妻側の住戸」は人気がありません。

以上の理由から、韓国では低層階や「最上階の住戸」、「妻側の住戸」よりも「妻側の住戸を除いた中間階の住戸」が人気で、資産価値が高いとされています。

韓国のマンション 賃貸と分譲のシステムの違い

韓国 マンション

韓国のマンションには、日本と同様にも賃貸と分譲がありますが、日本にはない独自のシステムも存在します。その違いについて解説します。

●韓国の2つの賃貸契約制度、チョンセとウォルセ
韓国の賃貸契約には、チョンセとウォルセの2つの制度があります。
一般的に賃貸期間は2年で、チョンセの場合は、借主が賃貸契約時にまとまった保証金を支払い、貸主は保証金の運用で利益を上げるため、月々の家賃は不要です。
ウォルセの場合は、賃貸契約時に保証金を支払い、毎月決められた額の家賃を支払います。

保証金は退去時に全額返金されますが、チョンセの方が高額になります。

・分譲にはなくてはならない「チョンヤク」
韓国では一般的に「チョンヤク」という制度を利用してマンションを購入します。
「チョンヤク」は、1970年代に住宅需要が急増した際に、政府が住宅を所有するための頭金を負担する制度を導入したことが始まり、その後、定着し、現在では、多くの住宅購入者が「チョンヤク」を利用しています。
このシステムでは、銀行で「チョンヤク通帳」というものを作成し、2年ほど定期貯金を積み立てた後、マンション購入の資格を得られます。

また、分譲でマンションを購入する場合は、条件や選考順位があります。
家族構成、特に扶養家族の人数などで点数化され、選考順位が決められます。

間取り、断熱、脱炭素。韓国のマンションの特徴は?

韓国のマンションの間取りにはどのような特徴があるのでしょうか。
日本との違いを比較してみましょう。

●全ての部屋がリビングに接している
韓国のマンションは、玄関から直接リビングへと続き、すべての部屋がリビングに面しているのが最大の特徴です。
また、浴室はシャワーとトイレ、洗面台が一体化されており、バスタブがない家もあり、あっても使わないのが一般的です。
ベランダは、外観の美観、排気ガスからの保護、冬の防寒のために、室内に組み込まれた造りとなっています。

韓国 マンション
韓国 マンション

【室内に組み込まれたベランダ】

●厳しい寒さに対応する強い味方、オンドル

韓国 マンション

オンドルは韓国で古くから使われてきた伝統的な床暖房システムで、床下に設置された熱源から放射される熱で部屋を温めます。足元から暖められるので、冬の寒さが厳しい韓国では重宝されてきました。

韓国のマンションは二重窓が主流で断熱性が高いため、室内全体を暖められるオンドルは多くの家庭で使われています。また、電気を使う現代の乾式オンドルは太陽光パネルからのエネルギーを使用することで省エネに配慮された設計がされているので、快適性と省エネ性を兼ね備えているといえます。

一方、夏季の暑さ対策のためには、冷房専用のエアコンが付いていることが一般的になっているようです。

●脱炭素に向けた「グリーンリモデリング」への取り組み

韓国 マンション

【屋上に設置された太陽光パネル】

韓国は2050年までにカーボン・ニュートラルの実現に向けて、建築部門で「グリーンリモデリング」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げて、建築物の省エネ化を強力に進めています。
新築の建物は下表のように段階的にゼロエネルギービルディング(ZEB)が義務化され、既存の建物には補助金等の支援を行うことにより、グリーンリモデリングを促進するといったものです。

新築物件におけるゼロエネルギービルディング(ZEB)の義務化

2020年 延べ面積1000m²以上の公共建築物
2023年 延べ面積500m²以上の公共建築物、30世帯以上の公共の集合住宅※
2024年 30世帯以上の民間の集合住宅※
2025年 延べ面積1000m²以上の民間建築物
2030年 延べ面積500m²以上のすべての建物

※分譲住宅・賃貸住宅共通

韓国には築15年以上の老朽化した建物が540万棟(75%)存在しており、これらをグリーンモデリング化するために下記のような技術要素を取り入れたリモデリングを推進しています。

グリーンリモデリングプロジェクトで検討している技術要素

パッシブシステム
・快適な室内環境を実現するための外壁や屋根の高断熱化
・熱損失の主要因である窓やドアの高断熱化
・熱橋(ヒートブリッジ)や結露を抑制するための建物の高気密化
アクティブシステム
・熱エネルギーの再利用によるボイラーの高効率化
・再生可能エネルギーである太陽光発電システムの採用
・建物の省エネルギー、温熱環境の監視、確認ツールの採用


近年、カーボン・ニュートラルの実現に向けて、日本の住宅も急速に省エネ化が進んできていますが、新築のゼロエネルギービルディング化という観点では韓国の方が進んでいるようです。また、リモデリングについても実効性を高める為の施策が検討されています。

●韓国の大学生との交流を通じて、グリーンリモデリングについて学びました
2023年2月、東京大学准教授の前 真之先生を通じて、韓国の3つの大学(Sungkyunkwan大学、Kyonggi大学、Kyungpook大学)の先生や学生の皆様と交流会を開催しました。
交流会では弊社タワーマンションの改修工事現場を見学し、参加者から積極的な質問をいただきました。また、Sungkyunkwan大学教授のソン・ドゥサム先生からグリーンリモデリングについて解説をいただき、韓国の省エネ施策について大変参考になるお話を聞くことができました。

韓国 マンション

【韓国の学生や先生に改修工事の状況を説明している様子】

韓国 マンション

【情報交換会の様子】

韓国 マンション

【最後はみんなで集合写真】

『どうなっているの? 世界のマンション事情〜韓国編〜』をご覧いただきありがとうございました。
このシリーズは、年明け早々に東京大学の前先生からご相談を受け、韓国の大学関係者との交流会を企画・開催したことがきっかけです。交流会の中で行った現場見学では、韓国の学生から多くの質問があり、同じマンションでも国によって理解の違いがあることを知ることができました。そこで、私自身も世界のマンションについて学ぶことに興味を持ち、このシリーズを企画するに至りました。

建築には気候や風土、歴史や文化、ライフスタイル、技術や思想などが反映され、人々が生活する空間を作り出すだけではなく、地域の文化を継承し伝える役割も担っているといわれています。日本と世界のマンション事情の違いについて、これからどんなことが見えてくるのか、私自身も楽しみにしています。

最後にこの場をお借りして、この度ご縁をいただいた東京大学の前先生、グリーンリモデリングプロジェクトをわかりやすくご説明いただきましたSungkyunkwan大学のソン・ドゥサム先生、絶妙な同時通訳をしていただきましたKyonggi大学のチェ・ヨンジン先生、交流会に参加いただきましたKyungpook大学のファン・ゾンハ先生、ユン・チョルゼ先生、ソ・ヒョンチョル先生、学生の皆様に心から感謝いたします。

■あわせてお読みください。
・どうなってるの? 世界のマンション事情 〜ドイツ編〜
・カーボン・ニュートラルとは何? マンション住民が地球温暖化対策でできること
・マンションにおける省エネ対策「電力需給ひっ迫警報」に備えた心構えを
・マンションライフでSDGs! 〜日常生活でできること、マンション改修でできること〜
・社員に聞くシリーズ 京葉第一支店、京葉第二支店における「ちばSDGsパートナー制度」への取り組み〜


■この記事のライター
熊谷 皇
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。建築環境工学(温熱環境、省エネ等)を専門とする技術者。国土交通省 住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校等の講習会講師、日本建築ドローン協会(JADA)のWG等の委員を歴任。

(2023年6月19日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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