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どうなってるの? 世界のマンション事情 〜スウェーデン編・後編〜

スウェーデン

世界各国におけるマンションの事情についてご紹介するシリーズです。今回は、スウェーデンの住文化や住宅事情を調査しましたので前編、後編の2編に分けてお届けします。今回は後編を紹介します。
スウェーデンは、SDGs、太陽光発電などエコフレンドリーな取り組みが進んでいます。この後編では、スウェーデンのエシカルな住環境を支えるシステムと、マンションの住宅設計についてご紹介します。

目次
1. 環境に配慮されたスウェーデンの生活システムと住宅建築
2. 四季のあるスウェーデンにおけるマンション構造

環境に配慮されたスウェーデンの生活システムと住宅建築

スウェーデンの街を歩くと、ごみの分別やリサイクル資源の活用、自然エネルギーの利用など、環境への意識の高さに驚かされます。これは政府や自治体の取り組みだけでなく、住民一人ひとりの意識の高さの表れでもあり、スウェーデンの人々のエシカルな暮らしから多くを学ぶことができます。

●エシカルな暮らし
スウェーデンでは、各家庭で再生可能エネルギーを熱源として使用し、大気汚染の改善など地域の環境に貢献しています。
さらに、余剰電力を貯めておき、寒い時期に各住宅に届ける次世代電力網の整備も進んでいます。これにより厳しい冬を乗り越えるための計画的な蓄電が可能となり、環境に優しいエシカルな暮らしが実現されています。

☆エシカルについてはこちらの記事もご覧ください。
エシカル消費って何? マンションライフで実践する社会への思いやり行動

●バイオマスの活用

スウェーデン

【ダストシュート】

スウェーデンでは、生ごみや家畜の排せつ物、森林の間伐材などから作られる「バイオマス」をエネルギーとして活用しています。ストックホルム市内のバスの約15%は、バイオガスを燃料にして走っています。

2024年1月には生ごみの分別を義務づける法律がつくられ、各家庭でも生ごみと可燃ごみを分別することは当たり前になっています。生ごみを捨てるための専用の袋は生ごみと一緒に分解される素材でつくられているほど、住民の高い意識が伺えます。

●地域暖房システム
冬の寒さが厳しいスウェーデンでは、日本のように各家庭が独立した暖房システムを備えるのではなく、地域ごとに作られた温水を各住宅に設置されているパイプを用いて供給する「地域暖房システム」が一般的です。
「地域暖房システム」はストックホルムで約80%の普及率を誇り、住宅に限らず学校や大学、オフィス、商業施設でも利用されています。このシステムにより、エネルギーの最大約93%が再利用可能となり、環境にも経済的にも優しい仕組みが実現されています。

●サステナブルでエコフレンドリーな建築とデザイン

スウェーデン

国土の3分の2が森林であるスウェーデンでは、サステナブルな木造建築が注目され、モダンな外観で、かつ環境に配慮したマンションが人気です。
木造建築は炭素を固定し、建設時のCO2排出量も、コンクリートやスチールなどの材料で作られた建物に比べて大幅に削減することができます。
ストックホルムでは世界最大規模の「木造都市(ストックホルム・ウッドシティー)」の建設が計画されており、戸建て住宅、集合住宅や事務所ビル以外にも木材を使った新築プロジェクトが進んでいます。

また、都市部では木製建築材料のCLT(※3)を使用したマンションが増えています。CLTは、コンクリートに比べて製造時のCO2排出量が少ないだけでなく、軽量なので運搬時のCO2排出量も削減できます。CLTを使い、木の風合いを生かしたスカンジナビアデザインのマンションは、デザインだけでなくサステナビリティの面でも優れています。
※3 CLT:ひき板を繊維方向が直交するように積層接着したパネル(引用:内閣官房

四季のあるスウェーデンにおけるマンション構造

美しい四季がありながら冬は日照時間が平均4時間という環境にあるスウェーデンでは、マンション設備や構造にも様々な工夫が施されています。現行のスウェーデン建築基準法では、居住者の衛生管理に必要なインテリアと設備を備えることが明記されており、居間、睡眠、休息、炊事、食事など各目的に応じたスペースが規定されています。「衣食住」の中でも「住」へのこだわりが強いのです。

●自然光を最大限に取り入れる窓
冬の日照時間が短いスウェーデンですが、夏は地域によって朝3時30分から夜10時まで太陽の光を感じることができます。長い冬を乗り越え、夏の訪れを祝う「夏至祭」もスウェーデンの風物詩です。ピクニック、ベリー摘みなど、太陽の光を満喫するのがスウェーデンスタイルです。
スウェーデンの家ではカーテンをつけず、照明や植物を窓辺に置いてインテリアを楽しむことが一般的です。窓から太陽の光が差すと「今日は出かけよう」という気分になるほど、スウェーデンの住宅において窓は大切な役割を担っているといわれており、最大限に光を取り入れられるデザインで、住宅全体に光を取り入れるために天井に沿うように窓が配置されています。

スウェーデン

また、スウェーデンの建物は断熱性が高く、窓には3層構造の複層ガラスが使用されています。窓ガラスを180度回転させて家の中から外側を拭くことも可能で、デザイン性と機能性が両立しています。

●住宅の快適性を叶える高品質なロックウール
首都ストックホルムの冬はマイナス6℃にもなり、降雪が多い日が続きますが、家の中はとても暖かく快適です。
スウェーデンの住宅では、岩石を高温で融解し繊維状にした断熱材「ロックウール」が主に使用されています。ロックウールは断熱性、耐久性、耐火性、防音性に優れています。
日本の省エネ基準において木造住宅でのロックウールの厚みは関東で9cm、北海道で13.5cmとされていますが、スウェーデンの住宅の外壁は30cmから40cmの厚さにもなります。厚くしっかりとした断熱材がスウェーデンの住宅を暖かく快適に保っています。

●日本とは違う暖房機能「セントラルヒーティング」

スウェーデン

スウェーデンの住宅は長く寒い冬に対応するために優れた暖房設備が備わっています。主に温水パネルヒーターのセントラルヒーティング方式で、暖房性能、空気環境性能、耐久性、サステナビリティ、デザイン性に優れています。一般的にはエアコンは備わっていません。

●スウェーデンの暮らしの知恵
スウェーデンの人々は、身の回りの物や住まいを大切に使い、温かみのあるデザインを取り入れて生活の質を上げながら生活の質を高めています。四季を楽しみ、太陽の光を浴びて活力をチャージするのもスウェーデンスタイルです。住宅においても自然と共存する考えが広く浸透しており、スウェーデンの人々はメンテナンスしながら建物と長く使い、次の世代へ受け継ぐスタイルが一般的です。環境への負担を減らす意識が高く、循環型社会を目指す上で欠かせない考え方が人々の心に深く根付いています。

今回は前編・後編の2回にわたり北欧スウェーデンの住文化や住宅事情について紹介しました。
スウェーデンの住文化には、社会のシステムや人とのつながり、設備など、地球にやさしい循環化型社会を目指すための多くの学びがありました。古いものを大切に使いながら、新しい環境技術を素直に取り入れる姿勢に合理的でありつつもやさしい国民性を感じました。

■あわせてお読みください。
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■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師、日本建築ドローン協会(JADA)WG委員を歴任。

(2025年1月27日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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