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ノーマライゼーションの視点とユニバーサルデザインでみんなが住みやすいマンションへ

ユニバーサルデザイン

分譲マンションの管理組合の理事などで下記の事例でお困りになった経験はありませんか?

●大事なことを掲示しているのに伝わらない
●理事会の話し合いがまとまらない
●総会の委任状が集まらない
●繰り返しトラブルを引き起こす住人がいる

これらの問題への対策として「ユニバーサルデザイン」が有効な場合があります。ユニバーサルデザインは全ての人に平等な社会、「ノーマライゼーション」を実現するための設計手法です。

目次
1. バリアフリーとは? ユニバーサルデザインとは?
2. バリア(障壁)は見えるものだけに限らない
3. ノーマライゼーションとは?
4. マンションの共用部分での「読めない」を改善

バリアフリーとは? ユニバーサルデザインとは?

ユニバーサルデザイン

【目盛りが左右反対になっている左利き用定規】

はじめにバリアフリーとユニバーサルデザインの言葉の定義をご紹介します。

●バリアフリーとは?
社会にあるバリア(障壁)を取り除くことです。マンションライフのバリアフリーにおいては、建築的な要素や、情報等ソフト的な要素があります。

●ユニバーサルデザインとは?
年齢や障がいなど、個々の違いに関わらず全ての人が利用しやすいようにするという設計思想です。

バリア(障壁)は見えるものだけに限らない

バリア(障壁)といえば、段差を取り除くためのスロープ、子どもや車いすの人がエレベーターを操作できる低い位置のボタン、視覚障がい者が使用する点字ブロックなど、物理的なものを思いつく方が多いと思います。しかし、バリア(障壁)は物理的なものだけに限りません。

例えば、聴覚障がいにより警告音や火災警報器の音や避難誘導のアナウンスなどが聴こえない。あるいは、障がいや加齢により受験や就職を制限されたり、細かい情報が書かれたパンフレットが読みにくいといった場合などがあります。

●身近なユニバーサルデザイン
バリア(障壁)を取り除くことで(=バリアフリー設計)、多様な人が使いやすいように設計したユニバーサルデザインの事例をご紹介します。

・自動ドア
自動で扉が開くので、重たい買い物袋を両手に持っている人、子どもを抱っこしている人、力が弱い人、車いすの人、杖を利用している人など多くの人が便利に使えます。

・シャンプーやリンスのボトル
シャンプーとリンスのボトルを触ってみるとシャンプーのボトルには側面にギザギザの突起がついていることに気が付くと思います。この突起により、視覚に障がいを持っている人もシャンプーだと判別することができます。頭を洗うときは目を閉じる人が多いので、全ての人にとって役立つデザインです。あまり知られていませんが、知っていると便利です。
因みにこのデザインは、それまでに寄せられていた消費者の声を参考に、盲学校への調査などを経て完成したそうです。その後、業界各社で統一するよう働きかけられ、2011年には国際規格化され、現在では全身洗浄料やつめかえ用キャップにも採用されています。※

※シャンプーのきざみに込められた思い(花王株式会社)

・両利き用の道具
はさみや定規、パソコンのマウス、修正テープなど、利き手に関わらず利用できるよう工夫した文房具やパソコン周辺機器があります。右利き用のはさみは左利きの人にとってはハンドルや刃のかみ合わせが不都合な形になっていますが、両利き用のものなら右利きの人も左利きの人も使いやすいでしょう。左利きの人にとってのバリアを解決した事例です。

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【左:左利き用はさみ 右:右利き用はさみ】

・ピクトグラム
ピクトグラムは、「絵文字」「絵単語」と呼ばれるものです。非常口やエレベーター、エスカレーター、トイレの案内などでよく見ることがあるでしょう。漢字を読めない小さな子どもや日本語が読めない人、「ディスレクシア」と呼ばれる読字障害の人にとっても分かりやすいものです。ピクトグラムは、低い識字率への対応として1920年代にオーストリアで開発された「アイソタイプ」が原型とされています。その後、1964年の東京オリンピック開催を契機にピクトグラムは整備され、現在も改良が続けられています。

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・UDフォント

UD(ユニバーサルデザイン)フォントは、弱視や老眼の人でも見やすいフォントとして開発されました。一般の人にとっても読みやすいフォントであるため、自治体の広報誌や講演会の資料、駅の看板などで広く使われています。

・やさしい日本語

外国人に分かりやすい日本語のことで、言葉のユニバーサルデザインといえるでしょう。1995年の阪神淡路大震災では被災地に住む多くの外国人が日本語を理解できず、十分な情報提供や支援を受けられなかったことがきっかけとなって考案されました。
やさしい日本語は、「簡単な言葉を使う」、「一文を短くする」、「漢字にふりがなをふる」、「擬音語や擬態語(ユラユラ、クラクラなど)を使わない」といったポイントがあり、このポイントを踏まえると、次のような言い換えになります。

 ●粗大ごみ→ 机など 大きいごみ
 ●避難場所→ 逃げるところ
 ●ゴミの分別をきちんとしましょう→ 燃やすごみと燃やさないごみを 分けましょう

そしてこのやさしい日本語は、今では自治体の生活情報案内など、身近な場所でも使われるようになりました。

このようにユニバーサルデザインは、私たちの身の回りに浸透しています。

ノーマライゼーションとは?

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ユニバーサルデザインが広まると、より多様な人が、バリアや障がいを感じずに過ごすことができます。そして、「バリアを感じずに社会の一員として自由に社会参加することができる平等な社会を実現しよう」とする考え方を、「ノーマライゼーション」といいます。

ノーマライゼーションとは、「標準化」もしくは「正常化」という意味の英語です。厚生労働省は、ノーマライゼーションについて次のように推進しています。

『障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す』(引用:厚生労働省 障害者福祉 障害者の自立と社会参加を目指して

つまり、バリアフリーやユニバーサルデザインは、「ノーマライゼーション」を実現する取り組みの1つなのです。

それでは、冒頭でご紹介した、「総会の委任状が集まらない」「繰り返しトラブルを引き起こす住人がいる」などの困りごとを解消するにはどうしたらよいでしょうか。

マンションの共用部分での「読めない」を改善

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総会のお知らせや居住者へのお願いなど管理組合からのお知らせはマンションの掲示板に張り出すことが多いでしょう。この掲示板をユニバーサルデザイン化することで、問題への対策につながるかもしれません。
この時に意識したいことは、「誰かが困っていることに気が付いていない可能性がある」ということです。
また、発達障害、読字障害、色覚障害、聴覚障害などの障がいでは、どんなことに困っているのか周囲から理解されにくい場合があります。的確に対処するためには、障がいの特性を知ることが大切です。

●発達障害・読字障害・色覚障害 様々な障がいの特性

・発達障害
脳機能の偏りによる障がいです。発達障害の1つである「自閉スペクトラム症」の場合、他人とのコミュニケーションが苦手、特定のものに強いこだわりを示す、急な予定の変化に弱い、視覚や聴覚など感覚が敏感である、といった特性があります。
視覚が敏感な人の場合、掲示物に派手な色が使われていたり、たくさんの色が使われてカラフルだったりすると、まぶしく感じてきちんと見ることができない場合があります。
特定のものにこだわり、物事の優先順位付けが苦手な人も多く、掲示物に数多くの内容が書かれていると、どれが一番重要なのか分からないということも起こります。
大きな音が出る工事などでは、「いつ」「どんな音が」「どのくらいの間」出るかわからないと不安になったり、聴覚が敏感な人の場合、症状が悪化したりすることもあります。

・読字障害
発達障害のひとつで、文字の読み書きが難しい障がいです。普通に書かれている文字でも、にじんで見える、ぼやけて見える、動いて見えたり、読み間違いが多かったり、文章の理解が難しかったりするため、掲示物を読むことが困難な場合があります。

・色覚障害
色の区別がつきにくい障がいです。特定の色で、色の違いが分かりにくいことがあります。間違えてしまうことが多い色の組み合わせは、主に

 ●赤と緑
 ●紫と青
 ●黒と赤

などです。目立つようにと赤字で掲示した注意書きを読み落としてしまったり、カレンダーの祝日が赤色で印刷されていることに気づかず、ごみ収集のない祝日にごみを出してしまったりすることもあります。

●多様な人が使いやすいユニバーサルデザイン化

それでは、前述の障がい特性なども踏まえた上で、「みんなにとって分かりやすい」掲示板や張り紙にするにはどのような工夫をすればよいでしょうか?具体的な事例を紹介します。

・一度にたくさんの掲示物を貼らない(情報が多いと混乱し、わかりにくくなるため)
・「工事のお知らせ」「サークル活動」など、掲示する情報を分けて掲示する。(種類をわかりやすくする)
・時候の挨拶など省ける部分は省き、重要な部分を分かりやすくする。(必要な情報を届きやすくする)
・見え方をシミュレーションできるスマホアプリを使って、色覚障害の人が読める配色にする。
・上記で紹介した「やさしい日本語」や、弱視や老眼や読字障害の人でも読みやすい「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」を使って作成する

近年はSDGs(持続可能な開発目標)達成の一環として、人々の多様性(ダイバーシティ/diversity)を受け入れる社会の実現が求められています。マンションには様々な人が同じ建物に住んでいます。小さな子ども、高齢者、外国人、身体に障がいのある人、精神に障がいのある人、お子さん連れや介護をしている人、ケガをしている人。その中には、人知れず困ったり、あきらめたりして、助けを求められずにいる方がいらっしゃるかもしれません。多様な人が暮らしやすいマンションにするためにはノーマライゼーションという視点や、それを実現するためのユニバーサルデザインといった手法は、今後益々重視されることになると思います。

今回ご紹介した掲示板だけでなく、大規模修繕や管理組合のルールの見直し、そして住民への呼びかけなど、ちょっとした工夫をすることで、みんながより暮らしやすいマンションとなることを目指してください。

■あわせてお読みください。
・マンションでバリアフリーリフォーム トイレをバリアフリー化したい!
・マンションでのバリアフリーリフォーム、ここを押さえておけば安心!!
・リボベジってなに?食品ロスを減らしてSDGsに貢献!


■この記事のライター
熊谷 皇
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
千葉県出身。鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境(温熱環境性能、住宅の省エネ性評価等)。住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構・日本建築センター・職業能力開発総合大学校等の講習会講師の経験を持つ技術者。ライター。

(2023年5月29日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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