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マンション管理の「第三者管理方式」とは? 増加している理由とメリット・デメリットについて

第三者管理

マンションの管理は、従来、区分所有者の自治を重視して区分所有者で構成される理事会が組合運営にあたる「理事会運営方式」が主流でした。ところが昨今では、居住者の高齢化や住戸の賃貸化などによって、従来の方法では運営が困難となるケースが増加しています。そこで、組合員以外の第三者である専門家が組合運営に参加する「第三者管理方式」という方式が登場しました。今回はその背景や種類、メリット・デメリットなどについて考えていきます。

目次
1. 「第三者管理方式」とは
2. 運営を管理会社に委託する「第三者管理方式」がなぜ増えている?
3. 「第三者管理方式」 3つの方式
4. 「第三者管理方式」のメリット・デメリット
5. まとめ

「第三者管理方式」とは

「第三者管理方式」とは、管理組合の運営を第三者である専門家(管理会社やマンション管理士など)に一部または全部を委託する方式をいいます。管理会社の社員など第三者が理事長や役員に就任して、区分所有者である理事長や理事会が従来行ってきた業務を行う方式です。
区分所有者で構成される理事会は、従来、総会の開催、修繕計画の策定、修繕積立金の管理、予算・決算業務、居住者への報告などの業務を行ってきました。これらのマンション維持管理に関わる業務全般を、実質的に第三者が担当することになるのです。
ただし区分所有者は、管理会社などの専門家が適切に業務を進めているかをチェックする必要があります。
この方式を採用すれば、専門家が加わることで理事会運営の効率が良くなることや、さらには理事会そのものを廃止することもできるようになります。昨今、深刻な問題となっている「役員のなり手不足」の問題解消にもつながるため、最近、特に注目を浴びています。

運営を管理会社に委託する「第三者管理方式」がなぜ増えている?

近年、従来の「理事会運営方式」があまり上手く機能していないという管理組合が多くなってきています。その主な理由として、マンションの築年数の経過に伴う「区分所有者・居住者の高齢化」が深刻な問題となっていることがあげられます。

そして、そこには「役員のなり手不足」という大きな問題が横たわっています。それでは、従来の「理事会運営方式」に替わって「第三者管理方式」が増えてきている背景や理由について解説していきましょう。

●区分所有者・居住者の高齢化の進展
国土交通省が5年ごとに実施している「マンション総合調査」の中の「マンションの居住と管理の状況」※1をみると、区分所有者の高齢化が進展している様子がよくわかります。マンションの区分所有者は、世帯主と同じである場合が多いですが、世帯主の年齢が60歳代の割合は27%、70歳代の割合は前回調査時の18.9%から22.2%へ増加しています。また、築30年以上のマンションについては、居住者のほとんどが高齢世帯であるという現実が重くのしかかっています。 今後、マンション居住者の高齢化はさらに進み、こうした傾向が一段と顕著になることで「役員のなり手不足」の傾向がいっそう進むものと考えられています。

※1 平成30年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状

●マンション自体の高齢(経年)化
国土交通省が作成した資料※2によると、築40年以上のマンションは2021年末時点で、115.6万戸(マンションストック総数の約17%)となっています。
これが10年後には約2.2倍の249.1万戸、20年後には約3.7倍の425.4万戸が築40年以上のマンションになると見込まれています。若い世代が入ってこないマンションは、築年数経過がそのまま「区分所有者・居住者の高齢化」につながります。
マンション自体の高齢化は、修繕を必要とする箇所が増えたり、その工事内容が複雑かつ大規模なものとなったりして、そうした修繕工事をきちんと行えるのかということをはじめとして今後多くの課題を抱えていくこととなります。将来のマンション維持の観点からも「役員のなり手不足」の問題は、より深刻さを増すものとなっています。

※2 築後30年、40年、50年以上の分譲マンション戸数

●標準管理規約の改正
「標準管理規約」とは各マンションの管理規約の雛形であり、国土交通省が作成しています。この「標準管理規約」では住民自治に重点が置かれており、居住している区分所有者で構成される理事会が中心となって管理を行うことが前提となってきました。
ところが、こうした住民自治に基づいた管理組合運営は困難となる事例が増えてきたのです。前に述べた「居住者の高齢化」や、さらには賃貸化された住戸の増加による「役員のなり手不足」の問題が浮き彫りになってきたためです。
そこで、平成23年の標準管理規約改正において、理事の要件から「マンションに現に居住する」ことが撤廃されました。また、平成28年の改正では「外部専門家を役員として選任できることとする場合」という条文が追加されました。
これにより、区分所有者でない外部の専門家が理事に就任できるようになったのです。

このことは従来の「理事会運営方式」に替わって、昨今「第三者管理方式」が増えてきている大きなきっかけになったといえるでしょう。

●理事会活動が面倒、無関心層の増加
働き盛りの区分所有者は、普段は仕事で忙しくしているので、休日まで理事会活動に時間をとられたくないというのが本音でしょう。また、昨今はマンション管理に無関心な層が増加傾向にあるといわれています。
管理組合の仕事はボランティアであることが多く、このことから、例え費用を支払ってでも専門家に任せるべきだという考え方が広まってきました。

●投資用マンションの増加
投資目的のワンルームマンションやリゾートマンションの場合は、通常、区分所有者であるオーナーはマンションから離れた場所に住んでいます。この場合、オーナーが役員に就任をすることは困難なので、専門家への委託を希望する声がありました。

「第三者管理方式」 3つの方式

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「第三者管理方式」には3つの方式が想定されています。理事会を残したまま外部の専門家が理事長に就任する方法や、理事会を完全に廃止する方法などがあります。それでは、次のこの3つの方式について説明していきます。

●第三者が理事会の一員となり運営を行う方式
管理組合の役員(理事長、副理事長、理事または監事など)に管理会社の社員などの専門家が就任する方式です。
専門家は理事会のメンバーとなって、区分所有者である他の役員とともに管理組合の運営を行います。理事会そのものは維持されますので、これまでどおり区分所有者が役員となる制度は引き続き残ります。

●第三者運営で理事会が監視を行う方式
管理会社の社員などの専門家が理事長(管理者)となり、理事会は監事としてチェックする立場をとる方法です。
理事会そのものは維持されますが、これまでどおり区分所有者が役員になる方法と、チェックする理事会の役員として、さらに別の外部専門家を選任する方法も考えられます。

●第三者運営で理事会はなく総会が監視を行う方式
理事会を廃止して管理会社の社員などの専門家が管理者として就任する方式です。
理事会がなくなるので区分所有者が理事となる必要はなくなります。その一方で、区分所有者全員の意思表示の機会であり、最高意思決定機関として機能する総会が、管理者である専門家による運営を監視します。更に、区分所有者からは監事を選任して監視することを義務づけ、管理組合運営が適正に行われる体制をつくります。監査法人等の外部監査を行う場合もあります。

「第三者管理方式」のメリット・デメリット

第三者管理

「役員のなり手不足」を背景として標準管理規約が改正され、「第三者管理方式」を採用する管理組合が出てきています。それでは、ここから「第三者管理方式」のメリットとデメリットについて解説していきましょう。

・メリット
●理事会の業務軽減、心理的負担の軽減
「第三者管理方式」の最大のメリットは、理事会の業務が軽減することです。理事会そのものをなくせば区分所有者が理事になる必要もなくなります。理事会を存続させる場合でも、報酬を得て業務を行う専門家が理事会メンバーに加わることで、その他の理事会メンバーの心理的負担が減ることは、大きなメリットといえるでしょう。

●専門知識をもとにした適切な対応
マンション管理のプロが管理組合の運営を行うので、今までに比べてレベルの高い運営が期待できます。築年数経過に伴うさまざまな課題に対しても、専門知識をもとにした適切な対応をしてくれることは大きなメリットといえるでしょう。

●意思決定の迅速化
これまでの合議制による「理事会運営方式」に比べて、格段にスムーズな管理組合運営が期待できます。大きな支出を伴う修繕工事なども、今までどおり総会の決議を経ることに変わりはありません。しかしこれら多くの諸問題について、専門家による迅速な意思決定が期待できます。

・デメリット
●専門家への報酬支払による管理費の増加
最大のデメリットは、管理費が増加することです。第三者管理者となる専門家への報酬の支払いが追加されて、管理費の負担が増加することとなります。管理組合の収支全体を見直して、管理費を引き上げなければならない場合もあるでしょう。

●住民のマンション運営に対する関心が薄れる
従来の「理事会運営方式」では、居住している区分所有者により構成された理事会が組合運営にあたっていました。実際に理事会メンバーになることで経験や知識が蓄えられ、自身のマンションに対する関心が高まっていくという側面もありました。しかし、業務全般を外部専門家に委ねることにより、そうした機会が減って区分所有者の管理運営に対する関心が薄れてしまうことが懸念されます。

●倫理問題(利益相反)
管理会社など第三者が管理者となる場合は、利益相反の観点から十分な注意が必要です。例えば、管理者に就任した管理会社が、実際にはさほど重要度の高くない工事を自社でどんどん施工してしまう、といったことがないか監視しておかなければなりません。
区分所有者の利益と管理会社としての企業収益の追求は、利益相反が発生することがあります。利益相反取引が発生しない仕組みや監視体制を構築していく必要があるでしょう。

●「第三者管理方式」から、従来の「理事会運営方式」に変更することは困難
「第三者管理方式」増加のきっかけのひとつに、理事会活動に時間を取られたくないという考えがあることをご説明しました。
例えばこれを最大の理由として「第三管理方式」に切り替えた場合、面倒な理事会活動から解放されたと感じ、マンション管理組合員としての当事者意識はどんどん薄れていく区分所有者が増えていく懸念があります。こうした状態になったマンションで、「第三者管理方式」という管理体制に問題が発生した時には、どうすればよいでしょうか。管理者を変更したり、管理方式そのものを変更したりするためには、相当のパワーを要します。ところが周囲はマンション管理に無関心な人たちばかりで、総会で賛同してくれる人たちが少なければ、総会で管理方式変更の議案を通すことは困難です。

こうしたことから、いったん「第三者管理方式」を採用してしまうと、それを辞めることは非常に困難であることが予想されます。「第三者管理方式」自体がまだまだ新しい管理方式ですので、こうした問題に直面したマンションはほとんど無いかもしれませんが、「第三者管理方式」の広まりとともに発生が予想される問題ではあります。

まとめ

「第三者管理方式」は理事会の業務を軽減し、マンション管理のプロによる高いレベルの運営が期待できる方式です。しかも、従来の「理事会運営方式」と違って、よりスピーディーな意思決定による運営も期待できます。
しかしその一方で、専門家への報酬の支払い分の管理費負担の増加や、管理組合と管理者との利益相反に対する注意が必要となるなど、デメリットも指摘されています。

「第三者管理方式」は費用こそ増加しますが、今後ますます進展する居住者高齢化に伴う「役員のなり手不足」の問題を解消する一助となることは間違いないでしょう。

しかし、ここで忘れてはならないことがあります。マンションは区分所有者全員で管理していくものだということは、今までと何ら変わりがないということです。「第三者管理方式」を採用したからといって、何もしなくてもよくなるのではありません。
むしろ、今まで以上にチェック体制を強化し、区分所有者相互の合意形成と調整を図っていくようにしなければならないでしょう。今後ますますマンションの築年数が経過し、同時に居住者の高齢化も進んでいく中で、このことを深く理解していくことが強く望まれます。

■あわせてお読みください。
・マンションの管理組合と理事会役員の役割とは?基礎知識を徹底解説!
・マンションの管理組合の役員って何をするの?マンションの資産価値を維持しよう
・分譲マンションの管理規約って、どんなもの?
・マンション管理組合と自治会の違いとは


■この記事のライター
大塚 麻里絵
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
埼玉県出身 東京理科大学理工学部建築学科卒業
一級建築士・一級建築施工管理技士を有し、大規模修繕工事現場にも従事した経験のある女性技術者・ライター
※建装工業株式会社公式HPはこちら

(2023年3月27日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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