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高経年マンション 管理組合運営・建物の修繕ポイントとは?

高経年マンション

【施工中の開放廊下 左: 芝理事長・右:西海理事】

わが国には現在、築40年を超える高経年マンションが約115万戸あり、今後も増加の一途になります。建物の高経年化と共に住民の高齢化、いわゆる“二つの老い”が進行する中、マンション管理組合は今後、どのような管理を実践するべきでしょうか。管理組合にとって最大のイベントともいえる大規模修繕工事の段取り・管理組合運営をテーマに、築49年で4回目の大規模修繕工事を行っている日商岩井綾瀬マンションの理事の方々に、その秘訣を伺いしました。

●高経年マンションの運営にお悩みの方
●大規模修繕工事の準備にお悩みの方
●マンションの行く末にお悩みの方

目次
1. 工事履歴
2. 4回目大規模修繕工事
3. 各種セミナーで情報収集
4. 耐震性能
5. 給水管・排水管工事、各種電気工事
6. 現在の居住者
7. 価値向上
8. 総会・理事会・修繕委員会・イベント
9. 他の高経年マンションへのアドバイス
10. 終わりに

工事履歴

本マンションは、1974年に竣工し、今までの大規模修繕工事は、1回目を1984年、2回目を1995年、3回目を2005年、4回目を2022年9月〜2023年5月の工期で現在工事中となっています。サッシ交換は2016年に補助金を利用して行いました。したがいまして、築49年で大規模修繕工事は延べ4回で、約12年毎に行っています。

3回目・4回目の大規模修繕工事を当社が担当しています。実は3回目の大規模修繕工事の当社の評判は決して良くありませんでしたが、4回目の大規模修繕工事も当社をご選定頂きました。

4回目大規模修繕工事

窓サッシの工事で、修繕積立金累計額が少なくなりましたので、オリンピック後に大規模修繕工事を行う様に再計画を立てました。2020年5月、コロナ禍でしたが大規模修繕委員会を8名で発足致しました。翌2021年3月の総会承認で、2021年秋着工予定で進めようとしましたが、設計コンサルを入れると準備に1年要し、工事業者選定などで更に1年要する事が判明しましたので、設計コンサルに依頼するのをあきらめ、責任施工方式で行う事と致しました。

外壁はタイル張りではなく全面塗装なので、塗膜剥離が必要か否か、また現塗装膜にアスベストが混在しているか否かで施工金額が大幅に変わるとアドバイスを受けました。当社が、塗装膜付着力試験(無償)・アスベスト含有調査(有償)等を行い、現外側塗装膜の剥離が必要であること、アスベストの含有が無い事を確認致しました。

オリンピック明けの時期に、マンション修繕を延期した管理組合が多くあるとのことで、更にコロナ禍で感染拡大もあったので、工事時期を2022年秋着工に延期しました。8月に公募を行い9社の入札が有りました。建装工業の価格は一番安かったのですが、管理組合の中で、前回の悪印象が有ったという意見もある中、会社規模・近年の施工実績等を踏まえて総合的に判断され建装工業に、ご発注を頂きました。現在、渡辺裕倫代理人は、工事管理をしっかりと行い、各種説明も十分にあり信頼感があります。

高経年マンション

【施工中の開放廊下 右: 芝理事長・左:西海理事】

各種セミナーで情報収集

2014年に東京都主催のマンションセミナーに参加し東京都庁のマンション課が本マンションを視察され、耐震診断を実施し建物に水を入れなければ100年持つとアドバイスを受けました。

また、2016年〜2020年までの5年間、建装工業主催のマンションセミナーに参加していました。そのセミナーで、コンクリートは通常50〜60年の耐用年数と言われているが、更にメンテナンスをしっかり行えば70〜100年持たせることも十分期待できるとの話がありました。本マンションはこれまでメンテナンスをしっかりと行ってきており、これからの改修で、「まずは70年を目指そう」という想いを強くしました。さらに、大規模修繕工事は、1回目・2回目・3回目と4回目以降は全く別物であると言う話も印象に残っています。損傷個所が多くなり、工事内容が大きく異なり値段が上昇する可能性が高いと言うことを知り、今回の工事計画を進める上で非常に役立ったと思っています。

色々な情報収集を行って、とりあえず本マンションを、70年以上持たせることを目指そうとなりました。高経年マンションには様々な問題点が有りますが、実際に建替えを行ったマンションは263件(2021年4月1日現在、国土交通省発表)しかないので、マンションの寿命を伸ばすしかない、どうせなら『足立区の高経年マンションの見本』となる様に考えました。

耐震性能

本マンションは1974年竣工なので、新耐震基準制定1981年前なので旧耐震基準の建物になります。以前、耐震補強工事に10億円要するとの概算見積が有ったので諦めました。耐震診断を行い、耐震基準が、新基準に満たないとなると不動産価値が下がると考え、耐震診断はあえて行いませんでした。しかし、これから建物を持たせようと考えるならば避けては通れないので、いずれ耐震診断、部分的耐震補強工事などを含めて前向きに検討したいと思っています。

給水管・排水管工事、各種電気工事

台所の排水管は更新工事、洗面所・風呂場の排水管は更生工事を行っていますので、今後は給水管及びトイレの排水管の更新工事、各種電気系統工事を行いたいと考えています。特に給水管・排水管の内視鏡調査・抜管調査を行い、現状確認したいと思っています。

現在の居住者

新築から入居している居住者は、全体で1割程度だと思います。つくばエキスプレスの青井駅から徒歩5分と近く、管理運営・維持管理をしっかりと行っているので、若い人の入居も以前と比べると多くなりました。

今まで管理費・修繕積立金の未納問題等少しありましたが、何とか管理組合会計を健全に運営し、ほぼ12年毎に大規模修繕工事を行えました。

高経年マンション

【施工中の外部足場 右: 芝理事長・左:西海理事】

価値向上

2005年につくばエキスプレスの青井駅が出来てとても便利になりました。マンション管理評価を受け、A判定を頂いています。ミニバスもマンション前の道路を通るので、とても便利になりました。現在も、中古売買は活発に行われています。価格は、当初の販売価格を大きく上回っています。今後も建物のメンテナンスをしっかり行い、また、国土交通省のマンション管理認定評価制度にもチャレンジし、価値向上を目指したいと思っています。

総会・理事会・修繕委員会・イベント

本マンションは、317戸あり、70歳台以上の区分所有者も多くいらっしゃいます。総会では活発な意見もあります。残念ながら、足を引っ張るだけの意見等もありますが、概ね正常に機能しています。

理事は約60名(世帯の約2割程度)います。輪番制で2年任期となっていますので、10年に1回・2年の理事期間となります。総会の出席率は約20%の70名程度、理事会の出席率は約50%程度の実績となっています。コロナ禍で対面での議論が出来なくなり、紙面理事会・紙面総会となりましたが、しっかりと機能しています。

夏祭りは毎年行っていましたが、コロナ禍で3年中止となっています。毎年参加者は1000名程度で文字通り一大イベントです。今思えば、この様なイベントが盛大に継続実施できていたからこそ、今の区分所有者間の一体感に繋がっているのかと感じます。

修繕委員会は8名。内訳は現理事6名に加え一級建築士1名、前回修繕責任者1名を含めた8名で運営しています。工事引渡を受けるまで責任をもって対応する予定となっています。施工業者選定までは2週間毎、工事着手してからは月例工程会議を行っています。一般の方々への広報活動が重要と考え、掲示板を利用しての掲示と、皆さんに配布して工事の見える化に努めています。

高経年マンション

【施工中の開放廊下 右: 芝理事長・左:西海理事】

他の高経年マンションへのアドバイス

高経年になると、修繕費用が増大します。特に塗装膜の剥離が必要かどうか、その場合既存塗装膜のアスベスト含有の有無は、修繕工事金額を左右する大きな要因になりますので、計画段階の初期に各種試験を有料でも行った方が良いと思います。

あとは、修繕積立金の値上げは難しいと思いますので、支出が少なくなるように、どこまで管理組合独自で頑張れるかもポイントになります。

ビジネスでも何でも計画が大事です。行き当たりばったりでは、良い管理組合運営は出来ませんので、準備をしっかりと行う事です。当マンションは自主管理で、管理人と清掃員のみお願いして、あとは管理組合独自で対応して、区分所有者から預かったお金を有効に利用できていると思っています。

終わりに

今回は、管理組合にお邪魔し、芝理事長・西海理事にお話を伺いました。御二方ともとても聡明で、多くの専門知識を保有していらっしゃいました。二つの老い:建物・区分所有者は避けて通ることが出来ません。本記事をご覧頂き、元気な高経年マンションが増加する事を祈願して筆を置きます。

高経年マンション

【施工中の鉄骨階段 右: 芝理事長・左:西海理事】


■この記事のライター
吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者
※建装工業株式会社公式HPはこちら

(2023年3月20日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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