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【現場取材レポート】『女性3人チーム』で現場を動かす! 建設現場の新しい風 〜コープ野村啓明・パシフィック伏見/北海道/札幌市 大規模修繕工事〜

工事現場で活躍する現場代理人にフォーカスして紹介するシリーズです。今回は、北海道札幌市中央区のマンション「コープ野村啓明」と「パシフィック伏見」、この2つの大規模修繕工事を同時に管理している現場をご紹介します。札幌市中央区の中でも、閑静で利便性が高く、アクセスも良好、自然環境にも恵まれた住みやすいエリアに、この2棟は隣り合って建っています。まさにこの2つのマンションで、同じタイミングで並行して大規模修繕を行うという、珍しい現場です。そして、その現場を女性3人の現場所長と現場担当者たちが管理している点も、大きな特徴です。
目次
1. 工事現場の概要
2. メンバー紹介:「建装工業」の現場を支える女性技術者です
3. 工事の特徴:2つの現場を同時に進めることが居住者の負担軽減に
4. 難題への対応とチームワーク
5. 居住者とのコミュニケーション:心温まる交流と女性チームの強み
6. 未来への意気込み
7. 編集後記
1. 工事現場の概要

左側がコープ野村啓明、右側がパシフィック伏見
工事名称 | コープ野村啓明大規模修繕工事 |
建物規模 | 壁式コンクリート造 5階建 38戸 |
所在地 | 札幌市中央区南12条西20丁目2-17 |
竣工年 | 1982年 |
工事期間 | 2025年3月1日〜8月31日 |
発注者 | コープ野村啓明管理組合 |
工事内容 | 大規模修繕工事 |
 
工事名称 | パシフィック伏見大規模修繕工事 |
建物規模 | 鉄筋コンクリート造 11階建 21戸 |
所在地 | 札幌市中央区南12条西20丁目2-12 |
竣工年 | 1996年 |
工事期間 | 2025年3月10日〜7月31日 |
発注者 | パシフィック伏見管理組合 |
工事内容 | 大規模修繕工事 |
2. メンバー紹介:「建装工業」の現場を支える女性技術者です
本日はお忙しい中、ありがとうございます。女性3名が活躍されている現場ということで、お話を伺えることを大変楽しみにしておりました。まずはそれぞれ自己紹介からお願いできますでしょうか?
田中さん(現場所長):
北海道支店の田中です。私は2020年4月に中途採用で入社し、今年で6年目を迎えます。現在は、隣接する2つの現場を並行して管理する現場所長として、日々奮闘しています。特に今回は、私を含め女性3人のチームで現場を進めていることが大きな特徴です。若い女性メンバー2人の指導・教育も担っており、私にとってまさに「壮大なテーマ」だと感じています。
この大規模なプロジェクトをここまで順調に進めてこられたのは、ひとえに皆さまのご理解とご協力のおかげと感謝しています。女性だけのチームだからこそ生まれる一体感や楽しさがあり、毎日がとても充実しています。
樋口さん(現場担当):
田中所長と同じく、北海道支店で現場管理をしている樋口です。私は生まれも育ちも北海道札幌で、建装工業には2024年4月に新入社員として入社しました。これまでに2つの現場を経験し、今回は同時に2つの現場を担当するという、私にとって3回目と4回目にあたる現場です。これはとても貴重な経験だと感じています。
これまでは男性の先輩方と一緒に仕事をしてきましたが、今回は女性3人というチームなので、一層楽しく取り組ませていただいています。支店の目標として、4年目からは独り立ちすることになっています。そのため、まず今できることを一つひとつ丁寧に、確実にこなしていくことを大切にしています。現場のことが少しずつわかってきた今、「次に何を覚えるべきか」を考えることも増えましたが、あまり気負いすぎずに、着実に成長していきたいです。
船尾さん(現場担当):
私は今年の4月に入社したばかりの船尾です。今回が私にとって初めての現場になります。2つの現場を同時に進めることは「珍しい」とよく言われるのですが、私にとってはこれが初めての経験なので、「こういうものなんだな」とごく自然に受け止めています。
女性3人の現場も珍しいと聞きますが、正直なところ、「普通」がわからないので、珍しいとは感じていません。きっと、次の現場を経験したときに、今回の現場と比較して「なるほど、あの時は珍しかったんだ!」と気づくのかもしれません。
毎日が新しいことや驚き、学びの連続です。「なるほど! そうなんだ!」と感動することばかりで、業務においては不慣れなことばかりです。ただ、通勤や社会人としての生活リズムには、少しずつ慣れてきたところです。

左から船尾さん(現場担当)、田中さん(現場所長)、樋口さん(現場担当)
3. 工事の特徴:2つの現場を同時に進めることが居住者の負担軽減に
ありがとうございます。田中さんは現場所長として、樋口さんと船尾さんは若手現場担当として、それぞれの立場で現場に携わっているのですね。次に、今回の工事の特徴を教えてください。
田中さん(現場所長):
はい、今回の工事の最大の特徴は、厳密には竣工が1ヵ月ずれていますが、隣接する2つの大規模修繕工事をほぼ同時期に並行して実施していることです。そして、その2つの現場を私たち3人の女性スタッフで管理しているという点も、大きな特徴だと考えています。さらに、3人のうち2人は入社1年目、2年目の若手なので、教育をしながら現場を進めるという、私たちにとって大きな挑戦でもあります。
実は、この「2つの現場を同時に進める」というのは、マンションにお住まいの方々の負担を少しでも減らすことができるという効果があります。大規模修繕工事はどうしても、騒音や通路の制限などで、皆さまにご不便やご負担をおかけしてしまいます。仮に隣のマンションだけを先に工事した場合でも、やはりその影響は出てしまいます。
そのため、同じ時期に工事を進めることで、ご負担がかかる期間を短くできること期待して、建装工業が2つの現場を同時に施工管理させていただいております。私たちにとっても新たな試みであり、居住者の皆さまに十分なご理解を頂くことが特に大切なプロジェクトだと感じています。

取材風景
4. 難題への対応とチームワーク
なるほど、同時施工により居住者の皆さまのご負担を軽減することができるのですね。そのような大規模な現場を進める中で、特に大変だったことや印象に残っていることはありますか? 施工面での苦労や、ミッションをスムーズに進めるための工夫などがあれば教えてください。

見やすく掲示されたお知らせ
田中さん(現場所長):
施工で最も苦労したのは、コープ野村啓明の屋根から砂利を撤去する作業でした。断熱材の重しとして敷かれていた大量の砂利を、断熱材の更新と防水層の位置変更に合わせて全て取り除くことを管理組合様に提案し、採用されました。
これは、建物の重さを軽くすることで耐震性を高めるという目的もありました。ただ、想像以上に砂利の量が膨大で、屋根から地上へ運び出す作業が本当に大変でした。クレーンを長時間使い続けて、地道に運び出す作業が続いたのです。とても苦労しましたが、無事に全ての砂利を撤去できた時は、チーム全員で安堵しました。
また、ミッションを円滑に進めるために、いくつかの工夫をしています。まず、どちらのマンションも工事の種類ごとに同じ業者さんにお願いしている点です。業者さんを過度に増やさないことで、打ち合わせの回数が減り、意思疎通が格段に行いやすくなります。その結果、工事のスケジュール管理や、高い施工品質を保つことがしやすくなるのです。例えば、「午前中は伏見の現場、午後は啓明の現場」といったように、業者さんには効率よく作業を進めてもらっています。もし何か手違いがあってやり直しが必要になった場合でも、すぐに駆けつけて対応してもらえるので、非常に助かっています。
ただし、同時並行の現場管理というのは、いわゆる団地型の多棟マンションをイメージされるかもしれませんが、実際にはそれぞれ別のマンションなので、マンションごとに監理者が異なります。そのため、監理者への説明、管理組合様への説明、工程表、着工前書類、竣工書類など、すべて2現場分の書類を同時並行で作業しなければなりません。混同しないよう細心の注意を払いながら、私たち3人で手分けをして丁寧に対応することを常に心がけてきました。
現在は工事も終盤に差し掛かり、それぞれのマンションでどんな残工事があるのかを把握し、対応していくのは大変な作業です。そんな時、若い2人がいて本当に助かっています。これらの対応は、もちろん日頃から密なコミュニケーションを取ることが大前提です。それに加えて、私たち3人でグループLINEを作って活用しています。特に、残工事の部分については、その都度写真を共有したりして、常に3人全員が同じ認識を持てるようにしています。ちょっとした疑問点もすぐに確認できるので、非常に便利ですね。

工事ポストと一体型の居住者様向け工事情報システム
5. 居住者とのコミュニケーション:心温まる交流と女性チームの強み
大変な作業だったのですね。それが建物の安全性にも繋がっていると伺うと、居住者様もこれまで以上に安心して暮らすことができると思います。また、業者さんとの連携や書類管理の工夫、そしてチーム内のコミュニケーションが成功の鍵なのですね。3人のチームワークが不可欠だと感じます。さて、居住者の皆さまと接する上で、何か工夫していることや、女性チームならではのメリットを感じることはありますか?
田中さん(現場所長):
はい、居住者の皆さまとのコミュニケーションで一番心がけているのは、明るく丁寧に挨拶をすることです。工事中はどうしてもご迷惑をおかけするので、挨拶を徹底しています。
また、女性スタッフならではのメリットも感じています。女性の方が話しやすいと感じてくださるのか、居住者の奥様方からよく声をかけていただきます。「女性3人で現場管理しているなんてすごいね!」といった、好意的なお声がけをいただくことが多く、私たちも励みになります。
それから、女性お一人が在宅されているお部屋に点検などで入らせていただく際も、男性スタッフ一人で入るよりも、女性スタッフが入る方がご安心いただけるとの声もいただいています。女性3人で現場にいると、目立つのでしょうね。そうした点でも、皆さまに安心感を与えられているとしたら嬉しいです。
そして、工事がこれだけスムーズに進んでいるのは、管理組合様が大変親切に、そして積極的にご協力いただいているおかげに尽きます。例えば、工事に関する事前の告知や、皆さまへの連絡事項の周知など、きめ細やかにサポートしてくださっています。
大規模修繕工事は、私たち施工側だけでなく、居住者の皆さまと管理組合様との連携が何よりも大切だと実感しています。良好な関係性が築けているからこそ、何か問題が起きてもすぐに相談でき、解決に向けて一丸となって取り組むことができます。この場を借りて、改めて感謝をお伝えしたいです。

6. 未来への意気込み
女性チームならではの安心感や親近感は、大規模修繕工事において大きな強みですね。また、管理組合様との連携も非常にスムーズとのこと、素晴らしいです。最後に、皆さんの今後の意気込みや、仕事への思いをお聞かせいただけますか?
船尾さん(現場担当):
私はまだ入社2ヵ月目なのですが、一日も早く仕事の流れを理解し、先輩方のお役に立てるようになりたいと思っています。特に、協力会社の方々とのコミュニケーションは、奥が深くて難しいと感じています。私の知識がまだ足りないために、かえって作業の邪魔をしてしまうこともあるので、まずは自分でできるだけ覚えることを心がけています。
そのため、分からないことや気付いたことはすぐにミニノートにメモして、自分で調べるようにしています。入社2ヵ月ですが、このミニノートはすでに2冊目になりました!先輩方からは「今どき珍しいし、昭和っぽいね」なんて言われることもありますが(笑)、インターネットで調べるだけではなかなか覚えられないことも、文字に書いてまとめることはとても大切にしています。これからも、地道に努力を続けていきたいです。

日常の気づきをミニノートにメモする船尾さん
樋口さん(現場担当):
私は現在入社2年目ですが、再来年の4年目からの独り立ちを強く意識するようになりました。2年目でできるだけ多くのことを学び、3年目にはその知識を現場で実践できるようになりたいと考えています。
以前、先輩に相談した際に「3年目を充実させるためにも、2年目の過ごし方が大切だよ」と教えていただきました。だからこそ、今は「自分がもし現場所長だったらどうするだろう?」ということを常に考えながら、一つでも多くのことを吸収できるよう、日々の業務に取り組んでいます。
田中さん(現場所長):
実は私自身も、大規模修繕工事の経験は6年目なので、まだまだ学ぶことは多く、分からないことがあれば、迷わず北海道支店の先輩たちに相談します。私自身も常に成長の過程にいると思っていますし、これからも常に進化し続けたいと考えています。
その中で、若い二人に教える立場になり、大変だと感じることもあります。ただし、誰かに教えるということは、自分自身の学びにもなりますし、逆に若い子たちから教わることも多く、毎日がとても充実しています。
私たち北海道支店は、横のつながりが非常に強いのが特徴です。お互いに分からないことは積極的に質問し、相談し合いながら、チーム全体で高め合うことができていると実感しています。これからも、皆で力を合わせて、より良い現場づくりを目指していきたいです。
7. 編集後記
今回の取材では、マンションに居住者の皆様の負担を軽減するための同時施工への工夫、さらに日々のきめ細やかなコミュニケーションや若手育成への思いまで、今回の現場の裏側を詳しく伺うことができました。2つの現場を同時に進めるといった難易度が高いプロジェクトを順調に工事が進められているのは、女性3人の絶妙なチームワークがあるからこそと思いました。このまま安全に工事が竣工することを祈念します。
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■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師を歴任。日本建築ドローン協会(JADA)WG委員。
(2025年9月22日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。