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【現場取材レポート】札幌市「既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度」第1号案件
外断熱×大規模修繕で拓く、マンション再生の新時代――ロピア北21条管理組合、築31年からの革新

既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度

札幌市東区の閑静な住宅街に佇む「ロピア北21条」は、地上8階建て・総戸数55戸の中規模マンション。1994年10月に竣工したこのレジデンスは、鉄筋コンクリート造による堅牢な構造と、落ち着いたツートーンカラーの外観が特徴です。バルコニーにはトランクルームを備え、季節用品の収納にも配慮されています。さらに、オートロックやTVモニター付きインターホンなどの防犯設備も充実しており、安心して暮らせる住まいです。都市の利便性と静かな住環境を両立した「ロピア北21条」は、札幌市内で安定した人気を誇るマンションのひとつです。
築31年を迎えた今年、いよいよ2回目の大規模修繕工事が始動。札幌市が推進する「既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度」の第1号案件として、先進的な取り組みとして注目されています。現場を統括する川崎所長から、工事の詳細とその意義についてお話を伺いました。

目次
1. 現場概要
2. 本工事の特徴と意義
3. 現場ならではの課題と、それを乗り越える工夫
4. 工事竣工までの意気込み
5. 最後に

現場概要

工事名称 ロピア北21条大規模修繕工事(外断熱工法)
構造・規模 RC造 地下1階・地上8階(5階・3階)
総戸数 55世帯
所在地 北海道札幌市東区北二十一条東23丁目5-10
竣工年 1994年10月竣工(築31年)
工期 2025年5月7日〜 2025年12月6日
発注者 ロピア北21条管理組合
工事内容 外断熱工事、大規模修繕工事全般
設計監理者 株式会社アイテック
取材日 2025年8月7日(木)
話を聞いた人 川崎所長

本工事の特徴と意義

本工事の最大の特徴は、札幌市が推進する「既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度」の第1号案件として「外断熱工法」の導入です。これは、既存の外壁に100mm厚の断熱材を新たに貼り付け、屋上には50mm厚の断熱材を追加することで、建物全体を断熱材で包み込むという改修手法です。この工法により、居住者の生活環境は大きく向上し、冬季の寒さや夏季の暑さを軽減することで、冷暖房費の削減にも寄与します。

既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度

【EPS断熱材貼付け状況 厚さ100mm】

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【EPS断熱材貼付け状況 厚さ100mm】

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【EPS断熱材貼付け状況 コーナー部メッシュシート貼付け状況】

既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度

【屋上断熱防水に使用する断熱材と防水シート】

さらに、外断熱による建物保護効果により、今後の大規模修繕工事の周期を延ばすことが可能となり、長期的な維持管理コストの低減が期待されています。こうしたメリットは、居住者の経済的負担を軽減するだけでなく、環境負荷の低減にもつながる持続可能な住まいづくりの一環となります。
補助金の活用にあたっては、交付決定後の着工、定められた工期内での完了、各種検査の合格、そして検査記録の整備など、厳格な条件が課されており、施工体制の確実性と管理能力が問われる工事でもあります。
また、屋上と外壁には携帯電話のアンテナ施設が設置されており、工事に際しては通信事業者との綿密な協議が必要となりました。アンテナ設備に影響を与えないよう、施工方法や工程管理には細心の注意が払われています。
さらに、建物全体に対してアスベストの有無を確認する検査を実施した結果、軒天井の塗膜からアスベストの含有が確認されました。これを受けて、該当箇所においては適切なアスベスト対策を講じながら、安全かつ確実な施工が進められています。
このように、「ロピア北21条」の大規模修繕工事は、技術的にも制度的にも先進的な取り組みであり、札幌市内の集合住宅改修のモデルケースとなる可能性を秘めています。今後の進捗と成果が、地域の住環境改善に与える影響にも注目が集まります。

現場ならではの課題と、それを乗り越える工夫

ロピア北21条の大規模修繕工事は、単なる改修にとどまらず、居住者の快適性と建物の長寿命化を両立させるための、数々の創意工夫が凝らされたプロジェクトです。現場では、札幌市の景観条例や補助金制度、技術的な制約など、複数の課題が複雑に絡み合う中で、的確な判断と柔軟な対応が求められました。

〇色彩計画と景観条例への対応
工事初期段階では、外観の色彩計画が重要な検討事項となりました。札幌市の景観条例では、高さ21m以上または幅50mを超える建物が申請対象となるため、本工事もその対象に該当致しました。居住者への説明責任を果たすため、カラーシミュレーションを作成し、視覚的に分かりやすい資料を提示しました。最終的には、札幌市が推奨する70色の中から、マンセル値N9「新雪色」に近いN8.7を選定。純白に近い清潔感のある色調は、ジョリパットの鏝抑え仕上げによって、近未来的で洗練された外観を演出する予定です。

既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度

【完成カラーシミュレーション 道路側】

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【完成カラーシミュレーション 駐車場側】

〇補助金制度と工期調整の工夫
札幌市の外断熱改修事業補助金を活用するにあたり、交付決定後でなければ着工できないという制約がありました。さらに、工事完了後には検査・書類提出の期間も必要となるため、実質的な工期は約1カ月弱短縮されることになりました。これに対応するため、協力業者との情報共有を徹底し、交付決定直後に即座に着工できるよう、綿密な打合せと準備を重ねました。その結果、現在までの進捗は予定通りで、遅延なく工事が進行しています。

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【多少の雨天でも作業が出来る様に壁面の雨養生】

〇外断熱工法に伴う足場設計の工夫
外壁に100mmの断熱材を施工するには、従来の足場設計では対応が困難です。そこで、安全性と作業性を両立させるために、はね出しブラケット足場を採用致しました。さらに、壁つなぎには180mmの寸切りボルトと高ナットを使用し、断熱材の敷設前から解体まで、足場の安定性を確保する工夫が施されました。

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【足場仮設の壁つなぎ状況(断熱材貼付け前)】

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【足場仮設の壁つなぎ状況(断熱材貼付け後)】

〇金物設置と周辺作業の段取り
外断熱工事に先立ち、金物の設置や周辺作業の完了が必須となります。金物の承認を得るための図面作成や、施工順序の調整など、着工初期から全力で対応。限られた時間の中で、精度の高い準備が求められました。

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【先行工事の水切り金物の延長施工状況】

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【パラペット三角板金設置状況】

〇通信設備との共存と防水工法の工夫
屋上および外壁には、携帯電話のアンテナ施設が設置されており、通信事業者との協議が不可欠でした。屋上にはアンテナと充電設備があり、防水工事には熱圧着工法が採用されましたが、配線周辺では熱による事故を防ぐため、冷工法を併用。結果として、熱冷ハイブリッド工法による施工が実現し、充電設備に影響を与えることなく、10年間の防水性能保証を確保することができました。

既存集合住宅外断熱改修事業補助金制度

【屋上に設置されている携帯電話アンテナ施設】

〇アスベスト対策への慎重な対応
建物全体に対してアスベストの有無を確認する検査を実施した結果、軒天井の塗膜からアスベストの含有が判明。これを受けて、該当箇所ではレベル3の工事を実施。作業員は防護マスクを着用し、作業区域は厳重に囲い込み、廃棄物は二重のビニールで密封し、マニフェスト管理のもとで安全に処理されました。

このように、ロピア北21条の修繕工事は、技術的な挑戦と制度的な制約を乗り越えながら、居住者の安心と快適性を第一に考えた、先進的かつ丁寧な施工が進められています。

工事竣工までの意気込み

川崎所長は、今回の工事に対して次のように語ります。
「本工事は、単なる修繕にとどまらず、ロピア北21条の建物価値を次世代へと引き継ぐ大きな節目と位置づけています。外断熱という先進的な工法を札幌市の制度のもとで実現することは、施工者としても大きな誇りです。その一方で、補助金制度ならではの厳格な条件や短縮された工期、通信設備やアスベスト対応といった課題も少なくありません。だからこそ、現場の一体感と綿密な工程管理が何より重要になります。居住者の皆様にご理解とご協力をいただきながら、一日一日を大切に、最後まで安全で質の高い施工を積み重ねていくことが、私たちの使命です」
静かな言葉の裏には、所長の確かな決意と、工事に携わる全ての関係者の熱意が込められていました。

最後に

「ロピア北21条」の大規模修繕工事は、築31年を迎えたマンションが、都市の持続可能性と住環境の向上を同時に実現するための、挑戦のプロジェクトです。外断熱改修は、省エネルギー・快適性・長寿命化の観点から、今後のマンション修繕のモデルケースとなる可能性を秘めています。
札幌市の補助金制度の第1号案件として歩み始めたこのプロジェクトは、竣工を迎えたとき、居住者から「暮らしの質が向上した」という実感を頂けると信じています。そして同時に、都市に点在する既存集合住宅の未来に、確かな指針を示すものとなるはずです。
この挑戦の行方を引き続き追いかけ、工事完了後にその成果を改めてご紹介してまいります。

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■この記事のライター
□吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
職能能力開発総合大学校を卒業後、建築・マンション修繕の分野で40年の実務経験を重ねる。マンション管理士・一級建築施工管理技士・一級管施工管理技士・マンション維持修繕技術者として、数多くの大規模修繕計画や管理組合支援を担当し、実務に即した提案力に定評がある。一方で、「専門知識を住民の方にもわかりやすく伝えること」をモットーに、講演・執筆・現場でのアドバイスを通じて、区分所有者が安心して暮らせるマンション環境づくりに取り組んでいる。専門家としての厳密さを大切にしながらも、読者に寄り添い“暮らしに役立つ情報”を届けることを目指している。

(2025年11月17日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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