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【対談】マンション防災対策強化の鍵は『自助の推進』

「いつか来る災害」に対し、私たちは本当に準備ができているのでしょうか。 今回のKensoMagazineでは、数多くのメディアで活躍され、ジャパン・レジリエンス・アワード優良賞を受賞されたマンション防災士・釜石徹先生をお迎えし、対談を行いました。従来の「避難所への移動」を前提とした防災から、マンションの堅牢さを活かした「在宅避難(自助)」へ。命を守るだけでなく、災害後の生活を守るための具体的なノウハウと、耐震化を含めた資産価値向上のヒントを伺いました。
目次
1. マンション防災の現状と課題
2. 「自助の推進」がなぜ重要か
3. 実践的な備えとポイント
4. 南海トラフ地震や直下型地震への備え
5. 在宅避難のための食事・トイレ・排水管チェック
6. マンション共助とネットワークの重要性
7. 耐震化へのアプローチと資金計画
8. まとめ:自宅を最高の避難所に
9. 編集後記
吉田:本日は「マンション防災対策強化の鍵は『自助の推進』」をテーマに、マンション防災士の釜石徹先生をお迎えし、マンションにおける実践的な防災対策についてお話を伺います。釜石先生、どうぞよろしくお願いいたします。
釜石先生のプロフィールは下記の通りです。
釜石 徹(マンション防災士)
◆講演・セミナー
首都圏のマンション(約100ヵ所)、自治体(21)、震災対策技術展、防災士会研修会での講演会に登壇
◆受賞歴
応募作品「在宅避難とマンション防災の新常識」
*ジャパン・レジリエンス・アワード2025優良賞受賞
◆マスコミ出演
朝日・毎日・日経・読売・神奈川・夕刊フジの新聞各紙、NHKニュースウオッチ9、毎日放送ラジオ・FMラジオへの出演、婦人之友、食べもの通信等の雑誌やWEB情報サイトから取材多数
◆著書
「マンション防災の新常識」(合同フォレスト)
釜石先生:よろしくお願いいたします。
1. マンション防災の現状と課題
吉田:まず、マンション防災の現状について、どのようにお考えでしょうか。
釜石先生:従来のマンション防災対策は、防災マニュアルの整備や防災組織の設置、共同備蓄、防災訓練などが中心でした。しかし、実際に災害が発生した際、「これで本当に安心できるのか?」という不安の声が多いのが現状です。特に大規模災害時には、避難所に頼らず自宅での在宅避難を実現するための“自助”の意識が不可欠です。

2. 「自助の推進」がなぜ重要か
吉田:
「自助の推進」がキーワードですが、なぜ今それが重要なのでしょうか。
釜石先生:
大規模災害時には行政や管理会社、他人の助けがすぐには期待できません。まずは自分や家族の命を守ることが最優先です。そのためには、建物の耐震性を確保し、停電や断水が長期化することを想定した備えをしておく必要があります。特にマンションでは、在宅避難を前提とした備蓄や、災害時にSNSが使えない場合の連絡手段も考えておくことが大切です。
このような自助が必要なのですが、現実はなかなか実践されていないといわれています。なので、マンション内の自主防災組織が中心となって、住民の皆さんの自助を推進することがマンション防災の最も重要な役割になると考えています。

3. 実践的な備えとポイント
吉田:
具体的な備えについて、マンションならではのポイントを教えてください。
釜石先生:
例えば、家具の転倒防止やガラス飛散防止フィルムの貼付、エアゾール式簡易消火具の備え、停電時自動点灯ライトの設置など、日常生活の中でできることが多くあります。また、食料や水のローリングストック(普段使いしながら備蓄を切らさない方法)、災害時トイレ対策も重要です。マンション内のネットワーク作りや、アンケートによってマンションの防災力を見える化することも効果的です。

【エアゾール式簡易消火具】
4. 南海トラフ地震や直下型地震への備え
吉田:
南海トラフ地震や直下型地震など、今後想定される大規模地震への備えについて、どのような点に注意すべきでしょうか。
釜石先生:
南海トラフ地震は、過去にも大きな被害をもたらしてきました。特に津波や液状化のリスクが高い地域では、ハザードマップの確認や、マンションの立地条件を踏まえた備えが必要です。また、直下型地震では、家具の転倒やガラスの飛散によるケガが多発しますので、日頃からの対策が重要です。さらに、発電所の被害や広域停電も想定し、1週間以上の停電に備えた準備が求められます。

5. 在宅避難のための食事・トイレ・排水管チェック
吉田:
在宅避難を実現するために、特に食事やトイレ、排水管のチェックについてアドバイスをお願いします。
釜石先生:
在宅避難時は、お子さんや普段料理をしない方も可能な「ポリ袋調理」など、簡単な調理法を家族全員で覚えておくことが大切です。主食のローリングストックを活用し、10日分の食料と水を常に確保しておくと安心です。トイレ対策では、携帯トイレや防臭袋の備蓄、排水管の損傷チェックも重要です。地震後は排水管が破損していないか簡易チェックを行い、問題なければトイレを使うようにしましょう。

【ポリ袋調理実例】

【マチ付きの耐熱ポリ袋・防臭袋】
6. マンション共助とネットワークの重要性
吉田:
マンション内での共助やネットワーク作りについて、どのような取り組みが有効でしょうか。
釜石先生:
一人暮らしの高齢者や子育て世帯、応急救護ができる住民同士のネットワークを平時から作っておくことが大切です。例えば、茶話会やイベントを通じて顔の見える関係を築き、災害時にはお互いに声をかけ合う体制を整えましょう。また、防災アンケートを定期的に実施し、マンション全体の防災力を把握・向上させることも効果的です。

7. 耐震化へのアプローチと資金計画
吉田:
マンションの耐震化について、どのようなアプローチや資金計画が考えられますか。
釜石先生:
1981年5月31日までに建築確認を受けた建物、すなわち旧耐震建物であれば、住宅金融支援機構から、耐震診断、耐震設計、耐震工事に関する費用を無担保・低金利で融資を受けることができます。例えば1戸あたり100万円の融資を受けた場合、20年返済では月5千円程度になります。さらに行政の助成金を活用することもできます。工事は居住したまま実施可能な工法を選択し、見栄えにも配慮した壁面補強工法などが推奨されます。耐震化を進めることで、将来の安心と資産価値の向上につながります。

8. まとめ:自宅を最高の避難所に
吉田:
最後に、マンション住民の皆様へメッセージをお願いします。
釜石先生:
「自宅を最高の避難所にする」ことが、マンション防災の最大の目標です。防災対策を通じて住民同士のつながりを深め、より安心で楽しいマンション生活を実現していただきたいと思います。


9. [編集後記]
釜石先生のお話を伺い、改めて「自助」の重要性を痛感しました。行政や他者の助けを待つのではなく、まずは自分たちの足元を固めること。それが結果として、マンション全体の「共助」を生み出し、災害に負けないコミュニティ形成に繋がります。私たち建装工業も、耐震化や建物の維持管理を通じて、皆様の「安心できる我が家」づくりをハード面から支えていく所存です。「自宅を最高の避難所に」この言葉を胸に、防災対策を見直してみてはいかがでしょうか。
■あわせてお読みください。
・災害発生時に必要となる住人の自助と共助。あなたのマンションは大丈夫ですか?
・災害に備えてマンションの防災力を強化!
・新耐震基準の「新」ってなに?
・関東大震災から100年。これを機会にマンションにおける防災対策を見直してみては?
■この記事のライター
□吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
職能能力開発総合大学校を卒業後、建築・マンション修繕の分野で40年の実務経験を重ねる。マンション管理士・一級建築施工管理技士・一級管施工管理技士・マンション維持修繕技術者として、数多くの大規模修繕計画や管理組合支援を担当し、実務に即した提案力に定評がある。一方で、「専門知識を住民の方にもわかりやすく伝えること」をモットーに、講演・執筆・現場でのアドバイスを通じて、区分所有者が安心して暮らせるマンション環境づくりに取り組んでいる。専門家としての厳密さを大切にしながらも、読者に寄り添い“暮らしに役立つ情報”を届けることを目指している。
(2026年1月19日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合がありますので予めご了承下さい。





















