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マンション修繕費用の積み立て 管理組合の創意工夫とは(改定版)

マンションの経年劣化への対策として欠かせないのが、建物の価値を維持するための大規模修繕工事です。この修繕費用は、区分所有者が毎月管理組合に納める「修繕積立金」から捻出されています。しかし近年、多くのマンションで、修繕計画の不備や未払いによって修繕積立金が不足するという問題が顕在化しています。今回は、積立金不足の主な要因とともに、管理組合が実践できる修繕積立金の適正化や確保のための具体的な解決策を詳しく解説します。
目次
1. マンションの大規模修繕に欠かせない修繕積立金とは? 管理費と何が違う?
2. マンションの修繕積立金が足りない! 物価の高騰も大きな要因?
3. 大規模修繕費確保に向けた取り組み 管理費の最適化と積立金の運用を
4. マンション自体が稼いで防ぐ修繕積立金不足 自販機設置や駐車場の貸し出しも
マンションの大規模修繕に欠かせない修繕積立金とは? 管理費と何が違う?

マンションの建物の耐用年数は、一般的に90〜100年程度とされています。これほど長期間、建物の価値を維持し良好な状態を保つには、適切な管理と計画的な「大規模修繕」が不可欠です。
大規模修繕の対象となるのは外壁補修、敷地内整備、屋上防水工事、給排水管、エレベーター等の共用設備の修繕・交換など多岐にわたり、マンションにおける生活基盤を支える重要な工事です。
マンションの大規模修繕はおおむね12〜15年周期で実施されますが、工事には多額の費用がかかります。そのため、ほとんどの管理組合が毎月「修繕積立金」として区分所有者から一定額を徴収し、計画的に資金を蓄えています。
同様に毎月支払うものとして「管理費」があり、マンションの維持管理に使われるという意味で修繕積立金と似ていますが、用途が異なります。
管理費とは、主に共用部分の日常的な維持管理に使われるお金のことで、マンション管理人の人件費、共用部分の備品代や維持・保守費、清掃費、保険関係費、管理組合の運営費などにあてられます。一方、修繕積立金は大規模修繕のみに支出されます。
マンションの修繕積立金が足りない! 物価の高騰も大きな要因?

近年、修繕積立金不足に直面するマンションが増加しており、多くの管理組合が必要な大規模修繕を実施できないという状況に頭を悩ませています。
マンションの修繕積立金は約25〜30年の長期修繕計画に基づいて算定し、それを各区分所有者に割り当てて月々徴収するのが一般的です。
しかし、国土交通省の調査結果によると修繕積立金を積み立てているマンションのうち、積立金の残高が長期修繕計画の予定積立額を充足しているマンションは約40%に留まっていると報告されています。
※参考:令和5年度マンション総合調査の結果について(国土交通省)
修繕積立金が不足する主な要因としては、以下が考えられます。
まず、長期修繕計画の期間中に社会の状況が変化し、建築資材や工事費などが高騰して当初の予算を上回るケースです。
特に、近年のような世界情勢の不安定化や紛争に因る資材の高騰は想定することが難しく、計画を超える費用増加の要因となります。
また、分譲時に購入者の初期負担を軽減するため、当初の修繕積立金を低めに設定し、段階的に増額する「段階増額積立方式」を採用している場合があります。計画どおりの大規模修繕費を確保するには適切なタイミングで修繕積立金を引き上げる必要があり、そのためには管理組合の合意形成が求められますが、区分所有者から値上げに対する懸念などにより合意に至らないケースが多く見受けられます。
さまざまな理由から修繕積立金の滞納者が増加傾向にある現状では、修繕積立金の増額は容易ではありません。
※参考:今後のマンション政策のあり方に関する検討会(国土交通省)
☆段階増額積み立て方式についてはこちらの記事でも解説しています
⇒マンション修繕積立金は「段階増額積立方式」と「均等積立方式」の2種類! それぞれのメリットとデメリットは?
修繕積立金の滞納率が一定基準を超えると金融機関等からの借入が困難になり、必要な大規模修繕が実施できなくなることも懸念されます。
さらに、少子高齢化や人口の都市部への集中などの影響でマンションに空室が増加すると、修繕積立金の不足問題がさらに深刻化するおそれもあります。
修繕積立金不足の解決策としては、区分所有者から徴収する毎月の修繕積立金の増額を検討したり、大規模修繕に向けて一時金を集めることなどが考えられます。しかし、追加負担が難しい場合もあり、修繕積立金の確保は年々難しくなっているのが現状です。
大規模修繕費確保に向けた取り組み 管理費の最適化と積立金の運用を

マンション管理は専門の管理会社に委託するのが一般的ですが、管理費の各項目について無駄がないか定期的に見直し、管理組合主導で管理会社と協議することが重要です。
たとえば、共用部電子ブレーカーの導入やLED照明への切り替え、損害保険契約の見直しなどによって経費を削減できれば、そのぶんを将来の大規模修繕費に充当できるでしょう。
また、マンションの修繕や維持管理にかかる費用を助成する自治体もあります。助成対象となる工事内容や申請要件は自治体ごとで異なりますので、お住まいの都道府県、市区町村の建築課や住宅課などの担当部署に積極的に問い合わせることをおすすめします。
※参考:地方公共団体における住宅リフォーム支援制度検索サイト
☆マンションの各種保険についてはこちらの記事もご覧ください。
⇒マンションの各種保険の種類と特徴は? マンションに必要な保険や補償内容を見直しする際のポイントとは?
一方、修繕積立金は通常、安全性を考慮して普通預金口座で管理されていますが、元本保証型の金融商品を活用した運用も検討する価値があります。
代表的なものとして、住宅金融支援機構が提供する「マンションすまい・る債」が挙げられます。2025年2月発行の債権を10年間保有した場合、単年利率は約1.666%で、同時期に発行された10年満期国債の約1.2%よりも有利な条件となっています。
※参考:マンションすまい・る債(住宅金融支援機構)
長期的な資産形成の観点から、信頼度が高く比較的よい利回りが見込める金融商品による運用も、検討すべき選択肢といえるでしょう。
また、将来実施する大規模修繕の費用の目安を事前に把握しておくことも大切です。管理会社に築年数や工事内容など条件が近い物件の資料を用意してもらったり、可能であれば工事費の見積もりを取ることをおすすめします。大規模修繕費が不足する事態を避けるには、具体的な数字に基づいて積極的に方策を検討する必要があります。
マンション自体が稼いで防ぐ修繕積立金不足 自販機設置や駐車場の貸し出しも

マンション自体を利活用し、修繕費を「稼ぐ」事例も増えています。
具体的には、屋上や敷地内への広告看板の設置、携帯電話等の基地局設置、空きスペースへの自動販売機設置などが挙げられます。また、コインパーキング業者やカーシェア業者への余剰駐車スペースの貸し出し、電力会社への電柱設置場所の貸与によって借用料収入を得たり、屋上にソーラーパネルを設置して電力を売るといった方法も考えられます。
さらに、クリーニングの取次業務を行うことで、手数料収入と区分所有者の満足度向上を両立するマンション管理組合もあります。
こうした方法で収益を得るには、管理組合総会における住民の同意が必要です。しかし、積極的な対策に踏み出せば、居住者の減少や高齢化が進む状況下でも安定的な修繕積立金確保につながるでしょう。
一方で、収益事業による利益には法人税の申告・納税義務が生じる可能性があるため、適切な手法については事前に専門家に相談することをおすすめします。
マンション修繕費をしっかり準備するには、管理費の最適化、修繕積立金の運用、自治体助成金の活用、収益事業の展開などさまざまな方法が考えられます。それぞれのマンションに合った対応策を検討し、管理組合と住民が協力して進めることが重要です。
適切な修繕計画に基づいて必要な修繕費を集め、定期的に大規模修繕を実施できれば、マンションの資産価値向上や安心して暮らせる住環境の長期的な維持につながります。
■あわせてお読みください。
・マンション修繕積立金は「段階増額積立方式」と「均等積立方式」の2種類! それぞれのメリットとデメリットは?
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■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師を歴任。日本建築ドローン協会(JADA)WG委員。
(2025年6月30日記事更新)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。
□舘林匠(たてばやしたくみ) ※元記事
北海道出身 飛行機の整備士を目指し、日本航空学園千歳校を卒業後なぜか建築の道へ。
一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士、宅建士をはじめ25の資格を有し、
バイク、ダイビング、DIY、料理など多趣味でちょっと飽きやすい性格。
最近はドローンにはまりプライベート機を3機保有している。