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管理組合に聞く 自分のマンションを長く適切に維持していくために 〜東京フロンティアシティ パーク&パークス〜前編

マンション 大規模修繕

【左:管理組合第15期理事長 / 右:建装工業横浜支店業務管理室 大塚麻里絵】

東京都荒川区に、2023年1月に初めての大規模修繕工事を終えた600戸を超える大型マンションがあります。大規模修繕工事の実施を20年周期とするべく、高耐久仕様での工事がおこなわれました。こうした工事を実施するに至った経緯や管理組合としての考え方にフォーカスし、管理組合理事長さんにお話をうかがいました。

こんな方におすすめ
●マンションにお住まいの方に
●マンションの管理組合運営に興味のある方に
●マンションの理事会活動に参加される方に
●ファミリー向けマンションをお探しの方に
●大規模修繕工事を控えた理事・修繕委員・組合員の方々等

目次
1. マンションの基本情報
2. 高耐久仕様の大規模修繕工事の実施にいたるまで
3. 大規模修繕工事の工事範囲と仕様の決定方法、管理組合の合意形成
4. 大規模修繕工事実施前や実施中の苦労
5. 大規模修繕工事の中で特徴的だった工事
6. 高耐久仕様で大規模修繕工事をおこないたいマンションに向けて

マンション 大規模修繕

【建物全景】

マンションの基本情報

マンション名 東京フロンティアシティ パーク&パークス
所在地 東京都荒川区南千住8-8-1
竣工年 2008年(築15年)※2023年7月時点
建物規模 6棟 地上20階地下1階建て 635戸
鉄骨鉄筋コンクリート造
(一部鉄筋コンクリート造)
大規模修繕工事工期 2022年1月〜2023年1月
発注方式 設計監理方式
取材日 2023年4月23日
お話しいただいた方 管理組合第15期理事長
(修繕委員オブザーバー兼務)
聞き手 ・建装工業横浜支店工事部 小池佳文
 (大規模修繕工事の現場代理人)
・建装工業横浜支店業務管理室 大塚麻里絵

後編でもご紹介する、マンション管理適正評価サイトでもご覧いただけます。
東京フロンティアシティ パーク&パークス
マンション管理適正評価サイト
一般社団法人 マンション管理業協会トップページ

高耐久仕様の大規模修繕工事の実施にいたるまで

終了したばかりの大規模修繕工事は、修繕周期を延ばすための高耐久仕様が組まれていることが特徴でした。どのような背景でこうした取組みをするに至ったのでしょうか。

もともと長期修繕計画の収支を改善する最も有効な手段は修繕周期を延ばすことだと考えてはいましたが、大きなきっかけは、大規模修繕工事の設計・監理会社を選定する時に、プレゼンに参加していた各社から提案を受けたことです。元々は12年の周期で計画されていましたが、選定に参加していた5社とも修繕周期を延ばす内容で提案をいただきました。建物の資産価値を向上させたいと常々思っていた私は、大いに興味を持ちました。提案された修繕周期は、15年が3社、18年と20年がそれぞれ1社で、最終的には最も長い修繕周期20年の提案の会社に設計・監理を依頼することとなりました。提案としてはまだ新しく、20年周期での大規模修繕工事をおこなった実績はまだほとんど無いとのことでしたが、そのチャレンジングな姿勢が良いと思いました。

最初に20年周期の大規模修繕工事の提案を受けた時は、現役でゼネコンで改修工事を担当している私の経験から、そんなに周期を延ばすことが可能なのだろうか、難しいのではないかと感じていました。当マンションはハーフPC板(床スラブの下半分程度を予め工場で製作し、残り上半分のコンクリート打設を現場でおこなう工法。新築時の工期を短縮する効果が期待できる。)を使用しております。築6〜7年目ぐらいで廊下・バルコニーのハーフPC板同士の継ぎ目部分の一部に今後漏水に発展するであろう痕跡(エフロレッセンス:コンクリート内に浸入した水分がコンクリート中の水酸化カルシウム等を溶け出させコンクリート表面に白くなって現れる現象)が発生していました。新築工事だってそのぐらいの年数で何かしら不具合が出てくるのに、改修工事で20年周期なんて非現実的だと思ったのです。しかし、今ある不具合に対する複数ある原因を一つずつ理解し対策を練り解消していくことにより、20年周期も実現可能ではないかという考えに変わりました。大規模修繕工事着工の1年ほど前の話です。

マンション 大規模修繕

【大規模修繕工事施工当時の様子】

大規模修繕工事の工事範囲と仕様の決定方法、管理組合の合意形成

大規模修繕工事での工事範囲や、そこをどのような方法で施工するのかといった具体的な部分は、どのように決定していったのでしょうか。また、その時の苦労した点や管理組合員の合意形成はどのようにおこなっていったのでしょうか。

初めての大規模修繕工事では床の長尺塩ビシートを張替えなかったり、屋上防水はまだ更新しなかったりという考え方もありますが、当マンションは20年周期で大規模修繕工事をおこなうということが前提です。今回一部の工事を見送ったとすると、足場が必要な工事(手摺の外側等)は築35年目まで手を着けないことになります。そう考えると、一部を施工対象外とすることは出来ません。

私自身は、築6年目の時に修繕委員となりました。その頃から、新築時の施工の良い点・悪い点を理解しており、以来このマンションの建物に関する問題点や、改良したい部分に関する案はいくつも持っていました。建物に不具合が発生するのには、必ず原因があります。当マンションで発生している問題点にも原因は必ずあって、これらを解消するための材料・工法・納まり(建築用語で、部材の接合部や複数の材料が重なる部分のディテールのこと)も含め、その仕様を設計・監理会社との打合せで進めていきました。

打合せでは、常に20年周期の大規模修繕工事であることを念頭に置いていました。そのためにやりたい工事を盛り込もうと、施工会社選定の前に見積項目をとにかく出し切ることを目指して、設計・監理会社とは根を詰めて打合せをしました。

臨時総会当日の説明はもちろん、そのための資料づくりも大変でしたね。また、可能な限り透明性の高い施工会社選定をおこないたかったので、施工者選定も修繕委員会が主体となっておこないました。設計・監理会社には、補助業務のみお願いしました。更に、価格だけにとらわれずに総合的に判断して施工会社を選定したかったので、価格以外の面で施工会社の特色を臨時総会で説明するのにも苦慮しました。20年周期で大規模修繕工事を実施しようとしているのですから、とにかく安ければいいという選び方もできませんでした。

管理組合内での合意形成にあたっては、今回の大規模修繕工事を20年周期でおこなう予定であること、そのためにハイスペックな仕様で工事をおこなうことや、全体予算及び施工会社選定の根拠・妥当性について、修繕委員会が臨時総会の場で自ら説明をおこなうことで、皆さんにご理解いただきました。設計・監理会社にその説明をお願いする方法もありましたが、それではなかなか熱意が伝わりません。伝えたいことは直接伝えないと。ですから、私は臨時総会の場で約1時間通して喋り続けることとなりました。マイクを持つ手がつりそうになるほどでしたが、本体工事費以外に、予備費+オプション工事費(長周期化するための仕様変更および居住者からの要望事項への対応費)として約2億円の費用を計上したにも関わらず、反対票は議決権行使書(管理組合総会当日に参加できない場合に議案に対してあらかじめ賛否の意思を示すことができる書類)の使用による2票だけと、殆どの区分所有者に賛成して頂き、議案を通すことができましたので、やった甲斐があったなと思っています。また、ハイスペックな仕様にしたからといって、一時金の徴収や借入金の発生が無いということを説明できたのも大きかったです。そのための試算も何度もおこない、説明の根拠としました。

大規模修繕工事実施中の苦労

大規模修繕工事の方向性が具体的に決まり、実施中に苦労したことはありますか。

工事期間中は、居住者からの意見書への対応に苦慮しました。特に大変だったのは、見た目が変わる工事内容とした理由を説明することです。建物の耐久性を高める前提で工事内容を決定していますが、中には多少景観の変わる工事内容もありました。具体的には、バルコニーや廊下床の長尺塩ビシートに付随するドレンレールに関することです。これは、エアコン室外機から出るドレン水などの排水ルートを作って、排水が様々な場所に流れてシートを汚したり傷めたりしないようにするための設備で、排水が決まった場所に流れるよう誘導することができます。その一方で、これを追加することによりシートの継ぎ目が増えます。当マンションは、廊下側ではこのレールの配置位置によって、漏水の発生リスクが高まりうる構造になっているため、場所によって位置の変更をおこないました。工事の計画段階では、バルコニーも廊下も、ドレンレールを設置する計画としていました。しかし、より高い防水性能を持たせるために、シートの継ぎ目はできるだけ減らしたいとも考えていたので、足場が無いと補修に行けないバルコニーは重点管理部位に指定していたこともあり、新築時から設置されていないバルコニー側は思いきってドレンレールは新たに設置しないという判断で、長尺塩ビシートの張替えをおこないました。工事が進んでくると、何故ドレンレールを設置しないのか、という意見が出てきました。最終的には、希望する居住者の費用負担で、長尺塩ビシートの上に(シートを切らずに)居住者自らドレンレールを貼り付けてもらう個別オプション工事にするという工事内容で落ち着きました。防水機能と排水機能のどちらを取るか、というような話なのですが、20年周期の大規模修繕工事を目指すという観点からは、防水機能の方が優先されます。それでも、これだけの規模のマンションですから、より身近な排水機能を優先させるという考えももちろん出てくるんですよね。なんとか折衷案を出してそれを実施することで、問題を解決できました。

大規模修繕工事の中で特徴的だった工事

外壁や床の防水など、高耐久仕様ではありますが、施工対象部位としては一般的な大規模修繕工事と変わらない部分もあります。その中で、施工対象部位として特殊だった工事内容はありますか。

当マンションは、隅田川沿いのスーパー堤防の上に建てられています。そのため、荒川区内では珍しいゼロ海抜ではない高い治水機能のある場所※なのですが、近隣の荒川沿いの堤防の一部に、鉄道の橋梁の高さが元々低いため堤防が周囲よりも低く設置され、今後高い位置へ橋を架け替える必要がある部分があります。工事は2023年から開始されていますが、完成はまだまだ先ですし、荒川が決壊するとなると相当な災害です。そこで、当マンションでも一部に治水対策をおこなうこととしました。2019年に東日本を襲った台風19号により、タワーマンション地下の電気設備が浸水したことがニュースでも報じられていました。当マンションでも、電気室を浸水から守るために、止水板を設置する工事を実施しました。
※荒川区水害ハザードマップ「荒川区防災地図(水害版)」(表面)参照

マンション 大規模修繕

【変電設備室に設置した止水板】

他にも、水に関する対策工事をおこないました。最近の超大型台風や、線状降水帯への対策として、全ての屋上に対して排水能力を計算し直した上で屋上防水工事を施工しました。一般的にはその地域の1時間あたりの最大雨量が用いられますが、今回の工事では東京都の1時間あたりの最大雨量ではなく、10分間の最大雨量が1時間降り続いた場合を前提とした、210mm/時間の雨量を採用しました。これに対応すべく、雨水配管経路を変更したり、その想定以上に降雨があった場合に備え、各屋上の立上りにオーバーフロー管(排水しきれなくなった水が屋上に溜まらないよう、一時的に外壁にそって排水する設備)を設置したりしました。

実は当マンションは販売時、防災機能を備えていることが特徴のひとつでもありました。敷地内に井戸があったり、緊急時にはかまどになるベンチやトイレにもなるマンホールを備えていたりします。

マンション 大規模修繕

【敷地内の井戸】

マンション 大規模修繕

【敷地内のかまどベンチ】

しかし、こうした設備の維持管理には不十分な部分があったり、防災委員会が十分に機能していなかったりして、防災に関して強いマンションという訳でもありません。止水板を設置することで、少しではありますが防災機能の向上にもなったと思っています。新たに水災保険にも加入しました。この他にもやりたいことはたくさんあります。共用部にある宿泊施設で、災害時でも身体くらい洗えるようにしたいですし、備蓄品をこの大規模マンションの中で効率良く配布する方法も考えたいです。発電機や停電時の階段用照明器具といった備品は購入しましたが、物を備えるだけではなく、実際の災害時に使用する場面までをイメージして、防災マニュアルをアップデートし、防災委員会も理事会の諮問組織として固定化していきたいですね。ありふれた防災訓練ではなく、楽しみながら防災意識を高められるような防災訓練を考案していきたいとも思っています。

高耐久仕様で大規模修繕工事をおこないたいマンションに向けて

昨今、高耐久仕様による大規模修繕工事が話題に上ることが増えました。同様に高耐久仕様で大規模修繕工事をおこないたいマンションさんに向けて、アドバイスできることはありますか。

高耐久仕様と一口に言っても、その建物が抱える問題点(不具合)やそれを解決するために適した仕様は様々です。ただお金を払って良い材料で工事を実施すればいいかというと、そうではありません。材料選定はもちろんですが、それを使ってどのような納まりにするのかも考える必要があります。更に、ご自身のマンションの建物全体に関することを、幅広く把握している方が区分所有者の中にいるかどうかも重要です。断片的な把握では、工事全体のことを総括して考えることが難しいです。分からないからと言って管理会社などに全てお任せしてしまうと、なかなか主体的に工事の内容を決めていくことができなくなります。

当マンションは修繕周期を20年周期として総会にて承認されております。通常の長期修繕計画以外に、長期修繕100年計画も同時に承認され、低価格な積立額により均等積立方式でも100年間一度も資金がショートすることがない計画としております。

こんな話を聞くと我々のマンションも20年周期で…とお考えになる理事長さん(修繕委員長さん)もいらっしゃるかと思いますが、私は簡単にはお勧めしません。今回の工事はゼネコン職員である私が、着工直後の足場組立から作業を都度自分の目で確認し、作業の仕方に問題があれば即是正してもらいました。躯体下地の状態が施工計画の通りでない場合は仕様の再検討を都度おこない、工法・納まりの変更をお願いしたりしました。私自身が20年間大丈夫であると自信をもって管理組合員に説明出来ているから実現できた工事だと思っています。

お住まいのマンションの中に、建築関係の方がいらっしゃる場合もあるかと思いますが、建築系の職業にも様々あり、新築工事専門の監督、工事の施工数量を拾っていく積算業務、建築工事を受注するための営業職、材料メーカーやその商社、実際に工事を施工する職人と様々です。ご自身の管理組合の中に、ピンポイントに現役で大規模修繕工事を現場で施工管理している人が居て、意欲をもって管理組合活動に参加して頂ける人が居る場合を除いてお勧めしません。

施工者や設計監理者に『費用が割り増しになっても良いので20年周期にして下さい』と依頼するだけでは、実際に20年もたなかった時に責任問題に発展しかねません。20年周期といっても保証書が発行される訳ではないですし、私も一般的には長周期といっても15年程度が妥当な周期だと思っております。実際に工事後18年や20年間不具合が発生しなかったら、結果として『長周期化出来て良かった』と考えるのが妥当です。長周期化したい場合は、資金の積立計画は今の12年〜15年程度のままとし、その時期になって大きな不具合がなく、工事周期を実際に18〜20年に延ばせたその時点で、修繕費を下げることを検討する方が責任問題に発展しない安心な方法だと思います。

■あわせてお読みください。
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■この記事のライター
大塚 麻里絵
建装工業株式会社 横浜支店所属
埼玉県出身 東京理科大学理工学部建築学科卒業
一級建築士・一級建築施工管理技士を有し、大規模修繕工事現場にも従事した経験のある女性技術者・ライター
※建装工業株式会社公式HPはこちら

(2023年7月10日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

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