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高齢化で眠りにも影響が? 健康のために考えたい高齢者の睡眠の質とは

近年、マンションでは建物の老朽化とともに住民の高齢化が進んでいます。高齢者にとって心身の健康維持に欠かせない睡眠に関する悩みは深刻で、加齢による睡眠の質の変化に伴って生じる睡眠障害や不眠症を訴える人も少なくありません。
高齢になると寝床で過ごす時間が長くなったり過剰に昼寝するなど、睡眠に費やす時間が長くなる傾向があり、「過眠」が健康に大きな影響を与えているとも考えられます。今回は、高齢者が本当に「質の良い睡眠」を手に入れ、健康的に暮らすためのポイントをご紹介します。
目次
1. 夜中に目が覚める…中途覚醒などの睡眠障害は加齢で増える?
2. 睡眠と認知症との関係性 質の良い睡眠とは
3. 過眠に注意! 睡眠の質を上げる方法とは
夜中に目が覚める…中途覚醒などの睡眠障害は加齢で増える?

「若い頃のようにぐっすり眠れなくなった」「朝方になると自然に目覚めてしまう」といった悩みを抱える高齢者は多いのではないでしょうか。これは、加齢により睡眠の構造が変わったためだと考えられます。
年齢を重ねると眠りが深い「ノンレム睡眠」の時間が短くなり、浅い眠りが長くなるため、ちょっとしたことで目が覚めやすくなるのです。
一般に、睡眠の問題は大きく以下のように分類されます。
・入眠障害:寝床に入ってもなかなか眠れない
・中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
・早期覚醒:予定よりも早く目が覚めてしまう
・熟眠障害:十分な時間眠っても熟睡感がない
特に、高齢者の睡眠障害はさまざまな要因が絡み合って起こっていると考えられます。
●高齢者の睡眠を妨げる要因となり得るもの
・慢性的な病気の症状
高血圧や心臓病、糖尿病などの内科的疾患、うつ病などの精神疾患、パーキンソン病などの神経疾患はいずれも睡眠に影響を与える可能性があり、認知症の患者さんの半数以上に睡眠障害があるともいわれます。また、関節の痛みなどがあり活動量が減ることも寝つきにくくなる要因になり得ます。
・薬の副作用
高齢者は複数の薬を服用しているケースが多く、薬の相互作用や副作用で睡眠が妨げられることもあるでしょう。特に高血圧の薬や気管支拡張剤、抗うつ薬などは睡眠に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
・生活リズムや環境の変化
生活リズムの変化が睡眠に影響を与える場合もあるでしょう。定年退職などで毎日決まった時間に出かける必要がなくなると、起床や就寝の時間が不規則になったり日中の活動量が減って寝つきにくくなったりして、睡眠の質低下につながる可能性も考えられます。
・季節の移り変わりによる気温変化
冬の寒さや夏の暑さも睡眠に影響を及ぼすとされています。特に冬、室温が18度を下回ると睡眠の質が悪化することが研究で明らかになっています。夏の暑さも寝苦しさにつながるでしょう。
※参考:室温と高血圧、睡眠の関係 - e-健康づくりネット(厚生労働省)
●高齢者に多い睡眠関連疾患
・睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に気道が閉塞していびきや呼吸停止が起こり、血液中の酸素が不足する病気で、60歳以上の男性の有病率は約20%といわれます。
・レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
就寝時にじっとしていると足がムズムズするなどの不快感におそわれ、寝つきが悪くなる病気で、高齢になるにつれ有病率は上昇します。
睡眠と認知症との関係性 質の良い睡眠とは

「たくさん寝ればいい」という考え方は、高齢者には当てはまりません。厚生労働省が2024年2月に公表した『健康づくりのための睡眠ガイド2023』によると、成人と高齢者、それぞれの睡眠関連のリスクは下記のとおりで、正反対ともいえる状況が問題とされているのです。
・成人(20〜59歳)では、睡眠不足による健康リスクが問題
・高齢者(60歳以上)では、長時間寝床で過ごすことによる健康リスクが問題
必要な睡眠時間は高齢になるにつれ短くなるため、寝床に入っている時間が長くても結果的に眠りの浅い時間が長くなり、睡眠への満足度が低下してしまいます。高齢者は寝床に8時間以上いると熟眠感が得られにくくなるばかりか、健康リスクが高まる可能性があると指摘されています。
※参考:健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)
なお、九州大学の研究では、睡眠時間が5時間未満と10時間以上の高齢者は5〜7時間未満の人と比較して認知症のリスクが上昇するとの結果が出ており、睡眠と認知症は密接な関係にあることを示唆しています。
睡眠時間は長すぎるのも短すぎるのも問題で、適正な睡眠時間には個人差もあります。朝目覚めたときに十分休めたという感覚に注目しましょう。
過眠に注意! 睡眠の質を上げる方法とは

高齢者は寝床で過ごす時間が長くなりすぎないよう注意し、睡眠の質を上げるための対策を取る必要があるといわれますが、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
●適度な室内温度を維持する
世界保健機関(WHO)は、冬の室内温度を18度以上に維持するよう推奨しています。寝室で寒さを感じている人は、そうでない人と比べて睡眠の質が低いことが報告されています。
特に高齢者は体温調節機能が低下していると考えられるため、室温をチェックするよう心がけ、冬は暖房を、夏は冷房を使って適切な温度に保ち、快適な睡眠環境を整えることが大切です。
●適度な運動を心がける
日中に適度に活動すると夜にぐっすりと眠れるかもしれません。特におすすめしたいのは散歩や軽いランニング、水泳、ヨガといった高齢者にとって無理のない有酸素運動です。集団で行うリクリエーションも楽しみながら体を動かせます。
関節の痛みなどがある場合には、動かせる部分だけの局所的な運動をしましょう。こうした運動を就寝の3時間前までに行うことによって一時的に深部体温が上がり、就寝前に大きく下がって入眠しやすくなるといわれています。
●メリハリのある生活リズムを作る
・朝日を浴びる
朝起きたらカーテンを開けて陽の光を浴びましょう。あるいは、10分でもいいのでマンション近くの公園を散歩したり、ベンチに座って景色を眺めたりするのもおすすめです。
・規則正しい食事
朝食をしっかりとって規則正しい食事を心がけましょう。また、夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませるようにして、消化の良いメニューで胃に負担をかけないように心がけましょう。
晩酌や寝る前にお酒を飲む習慣は眠りを妨げる可能性があるため、控えるようおすすめします。
・昼寝の時間は早めに設定する
昼寝をするなら15時より前までに、20〜30分程度にとどめておくことが大切です。1時間以上の長時間の昼寝は夜間の睡眠の妨げになることがわかっています。
・就寝前のリラックスタイム
寝る前にスマートフォンやテレビなどを見るのは控えましょう。液晶画面から漏れ出すブルーライトをたくさん浴びると眠気が飛ぶといわれています。夜は軽めの読書や音楽鑑賞、ぬるめのお風呂に入るなどしてリラックスした時間を過ごしましょう。
●社会とのつながりを持つ
地域の活動に参加して人と話し、交流することもよい睡眠を取るためには大切です。毎朝ラジオ体操に通うなどで、自然な運動習慣を身につけましょう。
高齢者の睡眠は「長さ」より「質」が大事です。寝床にいる時間にこだわることなく、睡眠の質に気を配りましょう。
朝は日光を浴び、日中は体を動かし、バランス良く食事をとり、室内温度を調整し、健康的な過ごし方をして、「寝すぎ」や「寝不足」に注意しながら自分に合った睡眠のリズムを獲得しましょう。
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■この記事のライター
□吉田 秀樹
建装工業株式会社 MR業務推進部 統括部長
愛知県出身 職能能力開発総合大学校(当時:相模原市)卒業
マンション管理士・一級建築施工管理技士・マンション維持修繕技術者を有し、大規模修繕工事の営業に従事した経験者
※建装工業株式会社公式HPはこちら
(2025年5月19日新規掲載)
*本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。