毎週月曜日更新

毎週月曜日更新

タグ一覧

みんなが暮らしやすいマンションへ。マンションだからこそ考えたい「心のバリアフリー」とは ?

心のバリアフリー

みなさんは「バリアフリー」という言葉を聞くとどのようなものを思い浮かべますか? マンションの出入口や公共交通機関に設置されているスロープのように、高齢者や身体に障がいを持つ人が生活する上で受ける物理的な困難を取り除くための設備というイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは「心のバリアフリー」という言葉です。これは、「様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと」を表しており、共生社会を実現するために社会全体の人々の心の在り方を変えていくことを促しています。

同じ場所で様々な人々が暮らすマンションでは、どう共生していけばよいのでしょうか。マンションを住みやすくするためには、「心のバリアフリー」が大切です。この記事では、「心のバリアフリー」について、マンションに関わる人が「心のバリアフリー」を実践するために知っておきたいポイントをご紹介します。

目次
1. 「心のバリアフリー」とは?
2. 「障害の社会モデル」の考え方と「心のバリアフリー」
3. 一人ひとりが実践する、「心のバリアフリー」
4. マンションはみんなが共に暮らす場所

「心のバリアフリー」とは?

心のバリアフリー

荷物が多くて両手がふさがっていて建物のドアを開けられなかったり、エレベーターのボタンを押せなかったりして困ったことはありますか?
そんなとき、居合わせた人が「何階に行きますか?」とエレベーターのボタンを押してくれると助かるのではないでしょうか。

「心のバリアフリー」は、東京オリンピック開催準備の関連会議である「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議(2017年2月)」により定義され、基本的な考え方が示されています。

<「心のバリアフリー」の定義と体現するためのポイント(ユニバーサルデザイン2020行動計画)>

〇「心のバリアフリー」の定義
「心のバリアフリー」という言葉は、ユニバーサルデザイン2020行動計画で「様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと」と定義されています。

〇「心のバリアフリー」を体現するためのポイント
①障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
②障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
③自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
引用:ユニバーサルデザイン2020行動計画

「障害の社会モデル」の考え方と「心のバリアフリー」の関係

心のバリアフリー

【障害の社会モデル】
「心のバリアフリー」を考えるために知っておきたいのが、「障害の社会モデル」の考え方です。
例えば、車いすに乗った人が入ったお店で、通路の幅が狭いために買い物ができなかった場合は、「お店のレイアウト」が元となって困難が生じています。
そのため、お店側がレイアウトを調節して通路の幅を広くとれば、その人の困難を未然に防ぐことができるでしょう。

このように、障がいのない人に合わせて作られた社会や仕組みが原因で障がいのある人への不利益をもたらす「障壁(バリア)」となるなら、その障壁(バリア)は社会の責務として取り除く、というのが「障害の社会モデル」の考え方です。この「障害の社会モデル」は、1960年代に世界各地で行われていた自立生活運動や障がい者権利運動の当事者から生まれたもので、2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」にも反映されました。

そして私たちが住む社会には、4つのバリアがあるといわれます。

●物理的な障壁(バリア):段差のように、主に移動面で物理的に生じている障壁(バリア)
●制度的な障壁(バリア):社会のルールや慣習、制度などにより生じている障壁(バリア)
●文化情報面の障壁(バリア):点字や手話通訳、字幕などがなく、必要な情報が受け取れないことで生じる障壁(バリア)
●意識上の障壁(バリア):周囲の無関心、周囲からの偏見や差別などで生じる障壁(バリア)

「心のバリアフリー」は、意識上の障壁(バリア)を取り除くことに似ています。

例えば、点字ブロックの上に置かれた荷物や自転車を見かけたことはあるでしょうか。これは人の無関心が引き起こすバリアです。
一方、「心のバリアフリー」を実現するためには、「合理的な配慮」に基づいて、4つの障壁(バリア)を取り除く必要があります。

【合理的配慮】
「障がいのある人も、障がいのない人と同じように生活できる自由や権利を守るために、周囲や社会が調整をしたりサポートをしたりすること」です。 (外務省「障害者の権利に関する条約」より)

具体的には次のようなものがあります。

●書類の代筆が可能な部分は本人に確認して窓口の担当者が代筆する
●出入口に近い席や同時通訳の手話が見えやすい席に案内する
●筆談ボードを使って意思の疎通を図る
●読み書きをうまくできない人が授業や試験を受けるときにタブレットや音声読み上げソフトを利用する
●聴覚に敏感さのある人がイヤーマフと呼ばれるヘッドホン型の防音器具や耳栓をつけ、集中できるようにする
●研修は事前に資料を渡して目を通してもらい、当日理解を深められるように配慮する

合理的配慮の提供については障害者差別解消法によって規定されており、これまでは行政機関等においては合理的配慮の提供が義務とされ、事業者は努力義務とされてきましたが、法改正により令和6年4月からは事業者においても合理的配慮の提供が義務化されました。※
※引用:障害者差別解消法(内閣府)
※参考:令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!(内閣府)

【コミュニケーションを取る力や共感する力を培うこと】
「心のバリアフリー」とは、障がいのある人もない人も、お互いを認めあいながら共に生きることです。
そのためには、困っている人の視点に立って困りごとを想像する力、共感することができる力が必要です。さらに、子ども連れや障がいがあること・外国人であることなどで差別しないことが大切です。そしてこのとき、障がいのある人やその家族、ひとり親家庭の子どもなどを「かわいそう」と決めつけないことが肝要です。

具体的にはどのようなことでしょうか? 次の項目で詳しく紹介します。

一人ひとりが実践する、「心のバリアフリー」

心のバリアフリー

「バリアフリー」と聞くと、障がいのある人や高齢者を思い浮かべがちですが、どんな人でも、たくさんの荷物で両手がふさがっているときや、歩いていて転んだとき、怪我をしているときなど様々な状況で困りごとを抱えることがあるでしょう。 このようなとき、私たちができることはどんなことでしょうか。

それは、目の前の人が困っているかもしれないと気づき、手助けが必要かを本人に確認し、必要であれば本人が望む手助けをすることです。
具体的には、次のような行動が挙げられます。
●電車やバスで立っている高齢者や妊婦さんに「座りますか?」と声をかける
●青信号が分からず、止まっている人に「青信号ですよ」と声をかける。歩くことが不安そうであれば、歩行を手助けする
●段差で困っている車いすの人に、「お手伝いしましょうか?」と声をかけ、手助けをする。1人で難しい場合は、周りの人に協力を依頼する
●困っておろおろしている人がいたら「どうしましたか?手伝えることはありますか?」と声をかける

声かけや手助けを断られる場合もありますが、気に病まないでください。声をかけられて驚いてしまった、手助けをしてほしくなかったなど、何か事情があるかもしれません。
それでも、声をかけてくれた人の善意は伝わります。また、同じような状況にいる別の人は困っているかもしれません。

マンションはみんなが共に暮らす場所

心のバリアフリー

マンションは、様々な人が同じ建物で生活する場所です。また、毎日の生活をスムーズにし、災害時に役割を担うこともあるのが管理組合です。施設整備や災害時のマニュアルを「心のバリアフリー」の考え方で一度見直してみてはいかがでしょうか。

・災害時対応に役立つ「心のバリアフリー」
まず、慌てているときに限って忘れ物をしたり、緊張しているときにケアレスミスが増えたりというように、いつもと違う状況や場面では普段の力を発揮することが難しくなります。
「災害時は、普段なら発生しない問題が生じる」という認識を持つことが大切です。

心のバリアフリー

災害時は避難所に行く可能性もあります。『いつもと違う場所や場面が苦手』という特性を持つ発達障害の人の場合、不安からパニック状態になって大声を出してしまったり、動き回ってしまったり、座り込んで動けなくなってしまったり、独り言を繰り返したりするといった行動が出てくる可能性もあります。また、いつもなら問題なくできる意思疎通もこのような状況では難しくなり、ケガや体調不良を伝えられない状況になってもおかしくはありません。

高齢者の場合は、避難に時間がかかるほか、避難所での生活が続くと身体機能や認知機能が低下するといった問題が出てくることは、東日本大震災後の調査でも指摘されています。

また、日本語を使って日常生活を送っている外国人でも、災害時においては普段使わない言葉が使われるため、情報が伝わりにくくなります。さらに、聴覚障害があると防災無線や避難誘導アナウンス、口頭での情報を受け取ることができず、安全を確保することが困難になります。視覚障害では、周囲で起きていることや避難経路の状態もわからず、避難先では、慣れない食事や不衛生なトイレなどでさまざまな困難が生じます。

このように、困りごとを抱えた人は、災害時には、より多くの困りごとを抱えてしまいます。だからこそ、いつも以上に「心のバリアフリー」が大切になるのです。

なお、具体的な対策には次のような対策があります。
●「はい・いいえ」「持病があります」「薬を持っていますか」「アレルギーはありますか」「トイレに行きたい」などの言葉や絵をまとめたコミュニケーションボードを使い、指差しで意思疎通ができるようにしておく
●筆談ボードを用意する
●日本語が第一言語ではない人もわかりやすい、やさしい日本語※で案内できるようにしておく

※やさしい日本語:外国人に分かりやすい日本語のことで、「簡単な言葉を使う」、「一文を短くする」、「漢字にふりがなをふる」、「擬音語や擬態語(ユラユラ、クラクラなど)を使わない」といったポイントがあります。やさしい日本語についてはこちらの記事でも紹介しています。
ノーマライゼーションの視点とユニバーサルデザインでみんなが住みやすいマンションへ
参考:災害時障害者のためのサイト(NHK)
   コミュニケーション支援ボード(江東区)

この記事では、「心のバリアフリー」についてお伝えしました。
「心のバリアフリー」が浸透する社会を作るためには、一人ひとりが意識や行動を変えていくことが大切です。

マンションも、様々な人が暮らしているという点では社会と同じ構造です。同じ建物にたくさんの人が住むマンションだからこそ「心のバリアフリー」の視点が必要なのです。それによってみんなが一層暮らしやすいマンションになるでしょう。

■あわせてお読みください。
・ノーマライゼーションの視点とユニバーサルデザインでみんなが住みやすいマンションへ
・マンションでのバリアフリーリフォーム、ここを押さえておけば安心!!
・マンションでバリアフリーリフォーム トイレをバリアフリー化したい!


■この記事のライター
熊谷 皇
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
千葉県出身。鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境(温熱環境性能、住宅の省エネ性評価等)。住宅の省エネ基準検討WGの委員、建築環境省エネルギー機構・日本建築センター・職業能力開発総合大学校等の講習会講師の経験を持つ技術者。ライター。

(2024年4月8日新規掲載)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。

おすすめコンテンツ