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マンションにおける衣類の害虫対策! カツオブシムシの生体と予防・駆除方法(改定版)

季節の変わり目。久しぶりにクローゼットを開けたら、お気に入りの服に小さな穴が…。そんな経験はありませんか?
今回は、大切な衣類を守るために、「カツオブシムシ」の生態と予防法、もし穴が開いてしまったときの修復方法まで、役立つ情報をご紹介します。
目次
1. 虫食いが発生する原因は? 衣類害虫「カツオブシムシ」の生態を知ろう!
2. 1匹いたら要注意? 衣類を食べるカツオブシムシ 脅威の繁殖力
3. カツオブシムシを発生させないために 衣替え時にマンションでできる予防策とは
4. 服に虫食い穴が! カツオブシムシを見つけた時の対処法とは
5. 穴の開いた衣類は「かけはぎ(かけつぎ)」で直せる可能性も
虫食いが発生する原因は? 衣類害虫「カツオブシムシ」の生態を知ろう!

日本の衣類害虫として挙げられる代表的なものは、カツオブシムシ類のヒメカツオブシムシ・ヒメマルカツオブシムシと、イガ類のイガ・コイガなどです。ここでは、ヒメマルカツオブシムシと、ヒメカツオブシムシの2種について、その特徴や生態を説明していきます。
カツオブシムシ類は日本全国に生息する虫で、活動が活発になるのは気温15〜25℃、湿度が60%以上となる環境下です。幼虫の姿はいわゆるイモムシで暗い場所を好み、絹・麻・毛皮などの繊維質、鰹節・煮干し・粉ミルクなどの乾燥動物質、穀類などの乾燥植物質を食べます。幼虫の期間は約300日です。
一方、成虫は明るい場所を好み、白っぽい花に飛来して、蜜や花粉を摂食します。成虫が衣服を食べたりすることはありませんが、問題は年に1回、薄暗い場所に保管された衣服などの上で産卵するということです。ヒメマルカツオブシムシとヒメカツオブシムシの特徴は以下の通りです。
●ヒメマルカツオブシムシ
成虫は5〜6月頃に発生します。体長2〜3mm程度で、黄色、黒色、灰色のまだら模様が特徴です。羽化してから2週間程度経つと野外に出て、白・淡黄・淡桃色などの花に飛来し、花の蜜や花粉を摂食します。幼虫は4〜5mm程度の楕円形で、茶色い短毛で覆われていますが毒はありません。
※参考:秋に見られるヒメカツオブシムシの成虫(公益財団法人 文化財虫菌害研究所)
●ヒメカツオブシムシ
成虫は4〜5月頃に発生します。ヒメマルカツオブシムシよりやや大きく、体長は約3〜5mmで、光沢のある真っ黒な楕円形の姿が特徴です。産卵後は野外に出てデイジーやマーガレットなど、キク科の植物に集まって花上で花蜜や花粉を摂食します。
幼虫は体長約9mmで細長い芋虫のような形をしていて噛む力が強く、食材の包装資材に穴をあけて侵入することもできます。また、乾燥や飢餓に耐えることも可能で、成熟幼虫は6ヶ月〜1年も絶食状態で生存できるといわれています。幼虫で越冬して3〜4月に蛹(さなぎ)になります。
1匹見つけたら要注意? 衣類を食べるカツオブシムシ 脅威の繁殖力

カツオブシムシは、文化財を扱う博物館・美術館で「重要度Aランク(=文化財への被害発生頻度が高く加害力の強大な害虫)」として警戒されています。
カツオブシムシが繊維を食べて衣服に害を及ぼすのは約300日に及ぶ幼虫の期間です。幼虫は飢餓状態でも生存でき、冬を越して成虫になると産卵を始めます。産卵時期は5〜6月頃で、卵の数はヒメマルカツオブシムシで20〜100個、ヒメカツオブシムシでは40〜90個です。
また、蛹(さなぎ)から羽化して4〜5日で産卵数の95%以上を産卵したという記録もあります。産卵期間の成虫は幼虫のように暗い場所を好むとされますが、明るいところで産卵することもあるとのことです。卵は乳白色で非常に小さいため、見つけるのは簡単ではありません。
つまり、タンスやクローゼットにカツオブシムシの幼虫が残っていると、長期にわたって衣服を食害するだけでなく、餌がなくても生き延びる可能性があるということです。春になって蛹(さなぎ)の時期を経て羽化すると、成虫は短期間に多くの卵を産みつけ、再び幼虫が発生してしまうのです。
仮に家の中でカツオブシムシの成虫を1匹でも見つけたとしたら、その周辺には既に多くの卵や幼虫が存在している可能性があります。カツオブシムシの習性を理解して、正しい対策を講じましょう。
カツオブシムシを発生させないために 衣替え時にマンションでできる予防策とは

カツオブシムシの発生を防ぐためには、衣替えのタイミングで衣類の状態や保管の仕方を見直すのが有効です。年間を通して室温がある程度保たれやすいマンションでは、衣類害虫が一年中活動する可能性があり、それだけ虫食い被害も発生しやすくなります。
まずは、カツオブシムシを室内に入れないようにして、1年を通して衣類害虫が嫌う環境を維持するのがポイントです。
●侵入経路をシャットアウトする
・成虫は衣類に付着して侵入することが多いので、家に入る前に着ていた服を払う。
・クローゼットにしまう前に洗濯をする。またはクリーニング店の「防虫加工」を利用する。
・外干し後の衣類には、目に見えないホコリや虫が付着していることもあるので、表面をブラッシングしてから収納する。
・ゴミや段ボールは溜めこまずに処分し、部屋全体の掃除を心掛け、清潔を保つ。
・マーガレットなどキク科の植物はカツオブシムシが好むので、ベランダで育てたり部屋に飾ったりするときは、よく確認する。
●衣類害虫が好まない環境を整える
・衣類害虫は湿気の多い環境を好むため、定期的な換気で収納場所の風通しを良くする。
・衣類用の防虫剤を使い、使用期限が来たら忘れずに取り替える。
防虫剤の効果をクローゼット全体にいきわたらせるため、衣類の収納量は8割程度までに留めるのが理想的です。衣類を1着買ったら必ず1着減らすなど、収納スペースに余裕をもたせましょう。
服に虫食い穴が! カツオブシムシを見つけた時の対処法とは

カツオブシムシの成虫は衣服を食べませんが、産卵させてしまうと後が大変なので、成虫を見つけたらすみやかに除去することが必要です。
●殺虫剤
スプレータイプの殺虫剤を直接成虫や幼虫に直接吹きかけるのが手軽な方法ですが、見えない隙間に隠れている個体まで完全に駆除することは難しいので虫や卵が確認できない場合は、燻煙タイプの殺虫剤を使いましょう。 br>
※小さいお子様やペットがいる場合など、用法用量を確認して適切に使用しましょう。
●高温処理
しかし、幼虫は暗い場所を好むので発見しにくく、卵には殺虫剤が効きにくいため卵から成虫まで対応できるスチームアイロンによる駆除方法もおすすめです。 br>
ヒメマルカツオブシムシは成虫で60℃に8分、幼虫は50℃に5分さらすと死滅するとされています。スチームアイロンやスチームクリーナーなどを使えば、小さなお子様やペットがいるご家庭でも安心です。 br>
カツオブシムシ類の痕跡を見つけたら収納していた服をすべて洗濯し、洗濯表示を確認したうえで、アイロンがけできる衣服は丁寧にアイロンをかけます。スチームクリーナーは、高温で変色や変形を起こしてしまう材質に使用できないのでカーペットやソファなどに使用する場合は必ず材質を確認しましょう。
もし、対策を行っても衣類害虫の発生が防げず、発生源を特定できない場合は、専門業者に衣類害虫駆除の依頼を検討しましょう。
穴の開いた衣類は「かけはぎ(かけつぎ)」で直せる可能性も
もし、大切な衣類が虫に食われるなどして、穴や傷ができてしまったら……。非常にショックな状況ですが、あきらめきれない場合は、ある程度コストはかかりますが修復する手段はあります。それは「かけはぎ(かけつぎ)」という布地に開いた穴や傷をふさぐ技術です。
専門の職人が修復する衣類と同じ糸と生地(共布)を使って、元の状態になるように繊維の1本1本を丁寧に織り込んでいくというもので、生地の種類によっては修理の痕がまったくわからなくなることもあるそうです。
硬い生地や薄い生地、光沢のある生地などを使った衣類には修理痕が残りやすいものもあるようですが、どうしても直したい衣類があるならば、専門業者に相談してみてはいかがでしょうか。ちなみに関東では「かけはぎ」、関西では「かけつぎ」といいますが、どちらも同じ技術を指した言葉です。
衣類害虫による虫食いのリスクは上質な衣類ほど高いといわれています。大切な衣類を守るためにも、日頃から衣類害虫を発生させない環境づくりを怠らないようにしましょう。
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■この記事のライター
□熊谷皇(くまがいこう)
国立大学法人 鹿児島大学院工学研究科建築学専攻終了。専門は建築環境工学(温熱環境、省エネルギー)。国土交通省住宅の省エネ基準検討WG委員、日本産業規格JIS A 9521(2017)技術コンサル、建築環境省エネルギー機構(IBEC)・日本建築センター(BCJ)・職業能力開発総合大学校の講師を歴任。日本建築ドローン協会(JADA)WG委員。
(2021年3月29日新規掲載、2025年4月28日記事更新)
※本記事は掲載時の内容であり、現在とは内容が異なる場合ありますので予めご了承下さい。