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これからは「省エネ基準」があたりまえ?

省エネ基準

はじめに

みなさんは「省エネ基準」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?身の回りの「省エネ基準」としては、テレビやエアコン、車などの「省エネラベル」などで、目にする機会があるかもしれません。
実は、住宅・建築分野にも「省エネ基準」があります。省エネ基準の歴史は古く、1970年代のオイルショックを契機に制定・施行され、これまで少しずつ強化されてきました。

今回は、住宅における「省エネ基準」について、最近の状況について簡単に紹介します。

目次
1. 新築住宅は、「省エネ基準」に適合するのが当たり前の時代へ
2. 省エネ法改正の背景とポイント
3. 改正省エネ基準の内容
4. 既存のマンションだって、改修すれば省エネ基準に適合できる

1. 新築住宅は、「省エネ基準」に適合するのが当たり前の時代へ

2019年5月17日、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律(以下、改正省エネ法)が公布されました。改正省エネ法では、建築士は建築主に対して省エネ性能に関する説明を義務付ける制度※が新たに創設されます。
省エネ性能の基準適合を義務化しているわけではないので、必ずしも省エネ性能が基準適合する必要はありません。
しかし、実際問題として建築士がお客様に対して、「これからお客様につくる建物は省エネ基準に適合しません。」とは説明しにくいので、これから建築される新築住宅は、例外を除くほとんどが「省エネ基準」以上の性能を有するといえます。つまり、新築住宅は、「省エネ基準」に適合するのが当たり前(最低レベル)となる時代に突入します。
それでも、欧州など世界的にみると日本の「省エネ基準」はまだまだ高いレベルとはいえないことから、はじめの第一歩といえるのではないでしょうか。
※制度の施行は2021年4月に行われる予定です。
省エネ基準

出典:エネルギー起源CO2の各部門の排出量の目安:国土交通省説明資料

2. 省エネ法改正の背景とポイント

改正省エネ法は、2016年11月に発行された「パリ協定」で示された温室効果ガス排出量の削減目標の達成を見据えた対策とされています。
日本におけるCO2排出量の1/3は住宅・建築分野からの排出であり、この分野の削減が不可欠です。そこで、住宅・建築分野の地球温暖化対策計画における目標として、2030年度までに、CO2排出量を2013年度と比較して40%削減することを掲げています。
つまり、今回の改正省エネ法は、建物の省エネ性能を高めることで、暖冷房・給湯・照明等の生活時におけるエネルギー消費量をできるだけ削減して、CO2排出量を減らすことで地球の温暖化を防ぎましょうというシナリオに基づいています。

3. 改正省エネ基準の内容

それでは、省エネ基準は具体的にどのようなものなのでしょうか。住宅における省エネ基準の評価方法は、外皮性能※と一次エネルギー消費性能の両方を評価します。
つまり、①建物の断熱性能・遮熱性能といった外皮性能※をできるだけ高める。②暖冷房や給湯・照明といった設備のエネルギー消費量を少なくする。の両方の対策をとることで、外皮性能や一次エネルギー消費性能を一定程度以上に保つように定められています。
※外皮(建物の屋根や壁・床・窓など主に屋外に面する部分)の断熱性能や遮熱性能

4. 既存のマンションだって、改修すれば省エネ基準に適合できる

「これから新築される住宅は最低レベルが省エネ基準かもしれないけれど、今住んでいる住宅はあきらめるしかないのでしょうか?」との声が聞こえてきそうですが、そんなことはありません。断熱や設備を改修することで省エネ基準に適合させることは可能です。

例えば、実際にある築25年のマンションで断熱改修した場合の性能の違いを下図に示します。
省エネ基準
試算条件  ※実物件を対象に下記条件で建装工業で計算した結果
・計算対象住戸:千葉県市川市の築25年のマンション(最上階・妻側の住戸)
・断熱仕様:
省エネ基準
性能指標には、住戸の断熱性能を評価する指標として省エネ基準で規定されている「外皮平均熱貫流率」を用いており、数値が小さいほど、外皮から逃げる熱量が少ない(=断熱性能が高い)ことを示します。
なお、マンションでは、同じ断熱仕様であっても、最上階?中間階か?妻側(角部屋)か?等、住戸の位置により性能に差が出ますので、ここでは、最も不利とされる最上階の妻側にある住戸の性能値を示しています。

上のグラフをみると、断熱改修後の外皮平均熱貫流率0.71W/(m²・K)は、省エネ基準の0.87W/(m²・K)を下回っており省エネ基準に適合しています。
また、断熱改修後は、改修前に比べると外皮平均熱貫流率が1/3以下になっていることがわかります。これは少し大雑把にいうと、同条件下においては、住戸から外気に逃げる熱量が1/3以下になることを示しており、断熱性能が大幅に高められているということがわかります。

断熱性能を高めることは省エネ性能の向上はもちろんのこと、日々の暮らしの快適性や健康に対する影響などにも効果があります。
マンションの大規模修繕などは良い機会となりますので、ぜひ断熱改修も視野に入れてみてはいかがでしょうか。


■あわせてお読みください。
1. マンション大規模修繕で省エネ対策 遮熱塗料と断熱塗料
2. グリーンカーテンづくりに挑戦! 植物の力を活用して、省エネ・快適な夏を過ごそう
3. 断熱リフォームをすれば、冬も夏も快適に 電気代の節約にも!

《この記事のライター》
大塚 麻里絵
建装工業株式会社 MR業務推進部所属
埼玉県出身 東京理科大学理工学部建築学科卒業
一級建築士・一級建築施工管理技士を有し、大規模修繕工事現場にも従事した経験のある女性技術者・ライター

(2020年10月5日記事更新)

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