タグ一覧

管理組合に聞く タワーマンションの大規模修繕を技術提案型総合評価方式で臨んだ理由とは

管理組合
大規模修繕はマンションの管理組合と住人にとって一大イベントです。
管理会社に全てお任せという管理組合も多い中、民間では極めて珍しい「技術提案型総合評価方式」を採用して、マンション住人の希望する形で大規模修繕を成功に導いた管理組合の方々がいらっしゃいます。
今回はその舞台となった北海道札幌市にある、1995年築、地上28階建のタワーマンション、ライオンズマンション札幌スカイタワーの管理組合の方々に大規模修繕についてのお話を伺いました。

(聞き手:KENSO Magazine編集部 [リボンハーツクリエイティブ株式会社])

ライオンズマンション札幌スカイタワー管理組合
(写真左から)
・清水 孝 様(管理人)
・南波 則雄 様(理事長)
・田村 智樹 様(修繕委員長)
・竹川 昌和 様(修繕委員(前理事長))
・服部 倫史 様((株)シー・アイ・エス計画研究所 代表取締役)
管理組合
――公共工事では多く採用されている「技術提案型総合評価方式」ですが、価格のみならず施工会社に提案された修繕内容も自分たちで審査しなければならないことから、発注者の負担も大きくなる方式です。
民間のマンションの改修工事で採用されたケースは極めて珍しいのではないでしょうか。どのような経緯で技術提案型総合評価方式を採用されることになったのでしょうか。

竹川:このマンションでは12年ほど前には修繕委員会を発足させて、価格変動のことも考慮して修繕資金計画をたてていました。田村さんは発注方式にもお詳しい工事の専門家でもありまして、長いこと修繕委員長を務めていただいています。
実際に今回の総合評価方式で話がまとまったのは2年前のことで、それまでは設計・施工分離方式で発注をかけようとしていました。

田村:普通のマンション大規模修繕工事では、単純にコストがいちばん安い施工会社がいい、ということになってしまいがちです。
でも、このマンションが北海道では初めて大規模修繕工事の時期を迎える超高層マンションであり、吹抜けのある構造であること、寒冷地という特殊な立地条件に加えて、市街地再開発事業の一環として建てられたマンションであることから、普通のマンション大規模修繕工事と同じように考えてはいけないのではないか、という懸念がありました。安易に修繕費が安いところを選んでも、絵に描いた餅のように計画通りに実現できなければ意味がありません。
どこに価値を見出すかということを考えるのであれば、こちらの要望も汲み取ってもらいつつ施工会社の知恵を借りて、提案を点数化してコストとのバランスを取ることができる、技術提案型総合評価方式が良いだろうという提案をしました。この方式の採用が決定するまでに、2年ほどかかりました。

竹川:ただ、当初は管理会社からの提案で、数社のコンサルタントが出てきたのですが、技術提案型総合評価方式でやりたいと言ったらみんな辞退してしまったんです。
それで困っているという話を、服部さんが偶然人づてで聞き、手をあげてくれたわけです。服部さんは公共工事を多く担当されているという、今回のコンサルタントにはうってつけの人物でしたので、幸運なめぐり合わせにより、技術提案型総合評価方式による大規模修繕計画を具体的に進められることになったのです。
服部さんの見解としても、民間のマンションでの技術提案型総合評価方式の採用は初めてのケースではないか、とのことでした。やろうとしても、途中でとん挫してしまう。

服部:私は2年ほど前から関わらせてもらっています。その時に既に、施工者を選定し工事着工に至るまでのスケジュールを決めていました。1年前からは評価項目を作って皆さんに理解してもらいました。ただし、外部に評価情報が漏れると大変なので、直接関わっている理事会や修繕委員会の方にも全て公開するのではなく、段階を経て公表してきました。
そして、評価項目を見て何がいちばん大事かということを理事会・修繕委員会の方からヒアリングをして、方針を決めていきました。評価項目にはかなり専門的な用語も出てきますので、何度も勉強会をやりましたね。

竹川:情報が施工会社に漏れてしまうと苦労が水の泡になってしまうので、服部さんはかなり慎重に行動されていました。実際に点数の評価表が外部に漏れて、公正さがなくなって失敗した事例もよくあるそうです。管理組合としては、修繕委員会とは別に理事長や修繕委員長を含まない評価委員会をつくることで、これに対応しました。

田村:総合評価方式の採用にあたり、この方式がどのようなものなのかということを居住者に説明する機会も設けました。ただ安い値段だけを見て安いところに発注するのではなく、その他の提案内容も含めて点数化したもので比較する方式だということについて、理解が深まるように努めました。
例えば個人の買い物に例えてテレビを買おうとした時に、ただ安いテレビを買う人もいれば、外観や機能など自分の求める付加価値のついたものを予算の中で買う人もいます。
今回の工事もそれと同じようなことですということを、居住者の皆さんに説明してきました。
管理組合
――技術提案型総合評価方式の採用を決められた上で、どのような点を基準にして施工会社を選定されたのでしょうか。

田村:今回の提案は全部で3社からいただいていたのですが、その中でもスケジュールとその実行性、足場やゴンドラなどの直接仮設計画の問題を事前の提案に組み込んでくれている施工会社を選びました。

特に直接仮設計画の問題がいちばん大きく、吹抜けがあることや寒冷地に立地していることから、このマンションは通常のタワーマンションとも条件が大きく異なります。
そこで、事前に建物の劣化具合などを調査していただき、見積もりを出して設計に反映してくれるかを踏まえて提案を出していただきました。

この提案を元に評価委員会の方で点数付けと実際に実行できるかの確認を行いました。その後、コストと比較をして1円あたりにどの程度の価値があるかを算出し、いちばん点数が高かった建装工業さんにお願いした形です。

竹川:応募から提案までの約3ヵ月間の間に、建物の劣化状況を正確に把握し、それを提案内容・見積にきちんと盛り込めているかがとても重要でした。

――今回、デザインビルド(設計施工一括発注)方式も採用されていますが、マンションの改修工事では、設計監理業務と施工業務を分離して発注する設計監理方式が一般的です。デザインビルド方式の採用も珍しいケースですが、採用された経緯をお聞かせください。

竹川:確かに今回の工事も設計監理方式で行こうという話も出ていました。しかし、大規模修繕工事に先行して屋上防水工事を行ったところ設計監理だけで400万円近くかかりました。また、設計事務所に頼んだ場合は複数の設計案を見ることができず、1つの案に絞られてしまう点もネックに感じました。

田村:さらにこのマンションは特殊な条件も多いため、実際に工事をする人が設計をしたほうが確実だろうという話で進みました。
また、もう一つ大きなところでは、直接仮設計画の問題を分離発注となる設計監理方式ではどうしてもクリアできないと考えたためです。特殊な条件な上に大規模な修繕工事ですので、全国を探しても前例がありませんでした。その中で、設計と施工を分離した場合に実際に工事の段階になって大規模な修正がかかり、費用が膨らむことは避けたかったのです。それらの理由から当マンション居住者への説明にも説得力が出せる、設計施工一括発注方式を採用しました。

――今回、これもタワーマンションで全国初の事例となると思うのですが、住戸間の隔て板の全周撤去を採用していただきました。
タワーマンションの大規模修繕工事において、作業効率が大幅に向上する方法ですが、プライバシーの問題などから通常は居住者の皆様からのご理解を得るのは困難です。この方法の採用を決められた経緯などをお教えください。

田村:地域性に加えてこれまで行ってきた管理組合の活動などもあり、あまり苦労はしませんでしたね。このあたりの地域の方は、人柄も良くおおらかな方が多いこともあり納得してくれました。中には反対された方もいましたが、最終的には協力してくれましたよ。

竹川:このマンションは全245戸のうち、地権者さんが15戸ほどいらっしゃって、管理組合や町内会の活動にも立ち上げの段階から積極的に取り組んでいます。そのおかげか70戸ある賃貸住戸の方々にも今回の隔て板の取り外しに協力していただきました。

南波:こちらとしても、隔て板を取り外して作業効率を上げるということに、最初から違和感はありませんでした。隔て板に手を加えて通り抜けられるように、という提案もいただきましたが、それであれば取り外してしまおうということを、管理組合側から提案しました。

田村:事前の居住者への説明では、工事の効率を上げられるように協力できるところはしないと、最終的にコストと時間に跳ね返って来ることを説明していました。どこかで妥協をする必要はあるということで、居住者の皆さんには納得していただけました。

服部:今回の工事に至るまでの経緯の中で、施工者からの提案を募りたい項目を出すために、居住者に対するアンケート実施に加えて、私の提案でワークショップも開催しました。そういった熱心な取り組みができる管理組合であるという点に、非常に感心いたしました。

田村:大規模修繕工事の前には、工事に関連した事項を見る目を養うために、修繕委員会が設計積算を行い、施工者を募って工事を施工したこともあります。この時はインターホンの交換工事などでしたが、こうした取り組みを行っていることは、居住者にもオープンにされていますので、管理組合がしっかりと運営されていることは居住者にも伝わっていると思います。
管理組合
――工事期間中での印象的な出来事がありましたらお聞かせください。

田村:いちばん大きいのはやはり地震ですね。修繕工事中にあの北海道胆振東部地震(2018年9月6日)が起こりまして、札幌でも震度5強〜6弱という、全く想定外の大きな地震でした。その時は修繕工事中でしたので、すぐに緊急点検に入って安全かどうかを確認していただき、直す必要があるところはすぐに直していただくことができました。復旧までの時間的なロスもなく不幸中の幸いでしたね。さらに、これもめぐり合わせなのですが、たまたま所長さんが関西で阪神淡路大震災を経験されていたことも、復旧対応には大きなプラスになったと思います。

南波:心配だったのは札幌一帯がダメージを受けていたので、当マンションには工事の人手が回ってこないかもしれないと心配していたのですが、そういうこともなく、修繕工事の全体のスケジュールの中で地震対策もこなしてくれました。
あと私が印象的だったのは工事中に建装工業さんが全戸のポストに投函していたお知らせですね。居住者への説明はもちろんですが、工事中も全戸へのお知らせ配りなどを通じて工事の情報を伝えてくれていたので、徐々に居住者にも浸透していって、間接的に建装工業さんとの一体感のようなものを感じられるようになってきたのが非常によかったです。
管理組合
――工事を終えての感想と、今後のマンションの修繕計画に関して、管理組合としての展望をお聞かせください。

竹川:他社が2年かかると言っていた工事を1年で終わらせてくれたのは大きいですね。途中に地震が起こり、耐震性能の確認も行っていただきましたが、しっかりスケジュールどおりに終了していただいて満足しています。

南波:心配していた仮設物やゴンドラの設置でもこちらの要望に答えていただき、スムーズに進行していただいたおかげで、雪が降るまえに工事が完了したのもうれしいですね。

服部:外部の者の意見としては、修繕委員会、理事会含めて、皆さん真剣に議論されて、何度も説明会を開いたり、臨時総会までやって慎重にことを進めていたことに感心しました。やる・やらないは別にしても後にしこりを残さないように説明責任をきちんと果たしていたのが印象的でした。

田村:とりあえず工事が終わってほっとしていますが、現状で積立金の残高がどれぐらいか、次回はどれぐらいの予算規模になるのかなど、今から次に向けて色々検討していく必要があります。
また、単純な修繕の繰り返しだけではなく、マンションの耐久性と付加価値をいかに向上させるかも長期スパンで考えていかなくてはいけないと考えています。今回の工事中に大きめの地震がありましたので、マンションの耐震性についても法の基準を満たせばいいのか、それ以上の対策をしていくのかなど、長い目で見て議論していきたいと思います。

竹川:大規模修繕工事が終わったら修繕員会は解散することになっていたのですが、本当にそれでいいのかをもう一度議論して、次の修繕工事の準備をどうするかを話し合いたいと思います。また、長期修繕計画の見直しは絶対必要ですので、そのあたりを早めにクリアして、実際に2回目の修繕工事に関わるであろう若い世代へのバトンタッチがうまくいくようにしていきたいと思っています。



――
技術提案型総合評価方式の採用はハードルが高いかもしれませんが、タワーマンションや特殊な条件が多いマンションで施工者が設計(仮設計画や仕様を決める)を行いデザインビルド(設計施工一括発注)方式を採用し多様な提案を選択できることは今後大規模修繕を迎えるマンションにとって大いに参考になる事例だと思います。
ありがとうございました。

(2019年2月15日記事更新)

おすすめコンテンツ